日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

ブータン・スイーツの甘い誘惑

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教 平山雄大

ブータンで出合えるスイーツの6割はグラブ・ジャムンをはじめとしたインドの激甘スイーツ、3割はケーキやエクレアといった洋菓子と言って良いでしょう。ではブータンオリジナルのスイーツにはどういうものがあるのでしょうか。

スイーツを「加工された“甘い”お菓子」と定義すると、残念ながら「ほとんどない!」という答えが正しいです。しかし決して「まったくない!」わけではありません。今回は魅惑のブータン・スイーツのひとつ、ツァチィ・ブラムを紹介したいと思います。

黒砂糖菓子ツァチィ・ブラム

ブータン東部にペマガツェルという県があります。交通の不便さから「陸の孤島」や「辺境」と表現する人もいますが、自動車道路が発達する以前はチベット=ブータン=インドを結ぶ最短距離の古街道のひとつが通っていた要所であり、東ヒマラヤ地域やインド・アッサム州との文化交流の窓口としても機能した、歴史的・文化的に非常に重要な場所です。

そんなペマガツェルのナノン郡北部に、「ツァチィ」と呼ばれる、比較的標高が低くサトウキビがたくさん採れる地域があります。ツァチィ・ブラムはそのサトウキビを使って作る黒砂糖菓子で、全国でもこのあたりでしか作られていない銘菓です。

ツァチィのサトウキビ畑

搾りやすいようにサトウキビを叩いて潰す

サトウキビ圧搾機。ギアの部分まで木製!

サトウキビの搾り汁を鍋で煮詰める

製造工程を見学しに、ツァチィの農家に伺いました。まずは、斜面に広がるサトウキビ畑から採ってきたサトウキビをお母さんが専用の棍棒で叩いて潰し、お父さんが圧搾期にどんどん投入していくという流れ作業です。圧搾機は、クギひとつ使っていない完全木製の代物で、牛がグルグル歩いて回すという非常に大がかりな仕組み!のんびり牛が回り、搾られたサトウキビがゆっくりと反対側から押し出されてきます。下に溜まった搾り汁は、その後鍋で煮詰めて水分を蒸発させ、濃縮トロトロ状態に。ここまでで第一工程終了。

原液。衝撃的な甘さ!

ツァチィ・ブラムの型。1回で68個作れる!

寝かせて完成

原液は、薬として飲んだり、来客をもてなす際にお茶の代わりに出すこともあるのだとか。いただいてみると、ブータンで一般的な「ンガジャ」という甘いミルクティーの1,000倍脳天にヒットする衝撃的な甘さ!

第二工程は、たこ焼き器を巨大化させたような木製の型にこの原液を流し込み、固めていく作業です。木製の型は、1回の作業で68個ものツァチィ・ブラムを作り出せる優れもの。固まったら取り出し、数日寝かせて完成です。

ツァチィ・ブラムひとつひとつは円錐形で、ピラミッド型というかおにぎり型というか磚茶(たんちゃ)型というか、ブータン風に例えるならば「小さな仏塔」のような感じです。形は独特ですが、味は沖縄県や鹿児島県の離島で作られている黒糖と似ています。絶妙な歯ごたえ!そして上質な味わい!オリジナルの甘いお菓子がほとんどないブータンでは異彩を放つ一品ですが、実は緯度がほとんど同じブータンの「陸の孤島」と日本の離島の、隠れた共通の名産品と言えましょう。

おまけ:圧搾機は、子どもの恰好の遊び道具

WAVOCブータンコラム「助教 平山のブータンつれづれ(第11回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2017/12/01/3029/