日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

「世界一幸福な国」を巡るあれやこれや(前編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教 平山雄大

「情熱の国」スペイン、「自由の国」アメリカ、「微笑みの国」タイ……、そして「幸せの国」ブータン。これまで「秘境」や「桃源郷」という枕詞をつけて語られてきたブータンですが、ここ十数年は「幸せの国」や「世界一幸福な国」としてメディアに紹介されることが多いです。しかし、タイの人々全員が常に微笑んでいるわけではないように、ブータン人も「幸せ~、幸せ~」とのほほんと暮らしているわけではありません。大多数の人は、悩み、葛藤し、怒り、泣き、祈り、毎日を懸命に生きています。

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そもそも、ブータンが「世界一幸福な国」であるという前提が間違っちゃっています。正確には「『世界一幸福な国』を目指している国」なのです。21世紀に入ってから、ブータン政府は「GNH(Gross National Happiness、国民総幸福)の最大化」を国家開発目標に定め、試行錯誤しながら国づくりを行っています。このような目標を掲げ、GNPやGDPの増大一辺倒だけではない開発の在り方を提示・実践し、さらに世界に発信している点がすばらしいのであって、決して現状のすべてがすばらしいわけではないのです。ブータンは世界一を目指して頑張っている、「on the wayな国」と言えましょう。

もし国民全員がすでに幸せなら、目標を達成した政府はその存在意義を失い「ハイそれまでョ、解散ッ!」となるはずですが、実際は違い、引き続きやるべきことはてんこ盛りです。2012年4月の演説で、当時の首相が「多くの人が誤って信じているが、ブータンはGNHを成し遂げた国ではない。他の大部分の開発途上国と同様、我々は、国民の基本的ニーズを満たすという課題のために奮闘している」※と述べられましたが、まったくもってその通り!なのです。

「恋は盲目」という言葉通り、幸福をテーマにブータンを愛しすぎてしまうと、ブータンを取り巻くその他の奥深い&興味深い事象に盲目になってしまいがちです。来年度にはWAVOCが提供する全学オープン科目としてブータン関連の科目がいくつか開講されますが、授業の中ではGNHや幸福といった点からのみではなく、多角的な視点/広い視野からブータンの諸事象に迫ってみたいと思っています。

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※“Address by the Hon’ble Prime Minister on WELL BEING AND HAPPINESS at the UN Head Quarters, New York” http://www.cabinet.gov.bt/?page_id=207(2017年1月20日最終閲覧)

WAVOCブータンコラム「助教 平山のブータンつれづれ(第5回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2017/03/21/2491/