日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

PBLワークショップinブータン

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

2019年7月28日から30日にかけて、チュカ県のチマラカに位置するチュカ・セントラルスクールにてPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)ワークショップが開催されました。これは、文部科学省が展開する「日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)」2018年度パイロット事業「「学校を核とした地域創生」海外展開モデル事業―ブータン王国での学校魅力化プロジェクト―」(実施機関:一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム)(※1)の一環で、ブータン側と日本側の関係者が協力しながら企画・準備を進め実現したものです。

参加校は以下の4校。地元のチュカ県の高校に通う生徒たち、首都ティンプーの高校に通う生徒たち、そして海士の高校生たちが一堂に会し、混成チームを作り「日本人観光客が思わずチュカ県を訪れたくなるような3分間の観光PR映像を作成する」というミッションに挑みました。

【参加校】
・チュカ・セントラルスクール(Chukha Central School)
・ゲドゥ高等学校(Gedu Higher Secondary School)
・モティタン高等学校(Motithang Higher Secondary School)
・島根県立隠岐島前高等学校

ミッションのテーマ設定の背景には、チュカ(をはじめとするブータンの地方)を巡る問題があります。都市への人口の一極集中と対をなす人口流出・過疎化を筆頭に、地域の魅力の発信力の弱さ、外国人観光客をはじめとした訪問者の少なさ…等。

日本側の実働部隊及びNHK松江放送局の撮影チームもチュカに集結し、各学校の先生がたとブータン各地の学校で働かれているJICA青年海外協力隊の方々もサポーターとしてチームに入ってくださり、ワークショップが始まりました。

チュカ・セントラルスクールに集まった高校生+関係者

チマラカの朝。これから一気に霧がかかります

ワークショップ開始前日。校庭で行ったアイスブレイク

チマラカの朝。これから一気に霧がかかります

1日目。期待と不安の入り混じる中、瞑想で心を落ち着かせてから開始(この瞑想は、ブータンの学校現場で展開されているGNH教育(Educating for GNH)の取り組みです)。オリエンテーションでこのPBLワークショップのミッションとルール、3日間のスケジュールが共有され、早速チームに分かれて話し合いが始まりました。対象とするターゲット層は日本人の中でも特にどういう人たちなのか、チュカの魅力はどこにあるのか、何をどう伝えたらより響くのか、そもそも日本との違いは何なのか…。相談ブースでの壁打ちを繰り返し、内容・構成をブラッシュアップさせていきます。

「チュカの霧に焦点を当てよう!」「インスタスポットを押さえよう!」「やはり都会では体験できない田舎の暮らしを推そう!」「きっとチュカ特有の自然や文化があるはずだ!」「仕事で疲れた日本人に癒しを提供しよう!」…とある程度見通しがたってきたところで、午後からはフィールドワークへ。町や村の人に話を聞いたり、農作業を体験してみたり、伝承が残る土地まで足を延ばしてみたり、PR動画の素材用に撮影を行いながら深めていきます。

チーム内での議論

相談を繰り返して内容・構成を磨いていく

チマラカの町でのインタビュー

夜のサポーターミーティング

2日目。前日の作業をもとに絵コンテを作り、本格的にPR動画の編集作業に向けて動き始めます。3分に収めるにはどうすれば良いのか、一番伝えたいメッセージを出すタイミングはどこなのか、ナレーションはどのようなトーンで録音すべきなのか…等、議論を重ね、相談ブースもフル活用。中には、追加の撮影のために再度フィールドワークに出かけるチームも。それぞれ工夫しながら、翌日の最終発表に向け夜遅くまで作業を続けていました。

絵コンテ

絵コンテをもとにした構成案の発表

iPadを使用しての動画編集

より良いものにするため、作業は続く

3日目。午前中に最終確認とリハーサルを行い、午後に最終発表と表彰。NHKに加えBBS(Bhutan Broadcasting Service)の取材(※2)も入る中、チュカ県の副知事、県職員の皆さん、校長先生や先生がた、旅行会社の社長等をお迎えし、各チームによるアツい発表が行われました。

チームが制作した「日本人観光客が思わずチュカ県を訪れたくなるような3分間の観光PR映像」作品を披露し、その後にターゲット層や工夫した点について説明するという二段階の流れで進行しましたが、どの作品もなかなかどうして質が高く、会場は大盛り上がり!チュカ県副知事、県職員3人、旅行会社社長、岩本悠さん(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表)、そして私が審査を行い、1点を争う恐ろしいほどの接戦の中で優勝チームが決まりました。

【各チームが制作したPR動画】
https://www.youtube.com/watch?v=36XoPwskBfI
https://www.youtube.com/watch?v=Xug3nFs2BCU
https://www.youtube.com/watch?v=6ZVI6wdaIMA
https://www.youtube.com/watch?v=ybxbLz0E7-0

完成したPR動画の最終確認

最終発表にて。作成したPR動画のお披露目

最終発表にて。ターゲット層について細かく説明をする

ドキドキの優勝チーム発表!

やることが多く頭も体もフル回転させる必要があり、参加した高校生にとっては非常にハードな3日間だったと思いますが、そこからの学びもきっと大きかったはず。

このPBLワークショップは、海士町が申請し採択されたJICA草の根技術協力事業(地域活性化特別枠)「地域活性化に向けた教育魅力化プロジェクト―ブータン王国における地域課題解決学習(PBL)展開事業―」に引き継がれ、来年は12月に実施される予定です。

【参考】
PBLワークショップのまとめ動画
https://www.youtube.com/watch?v=A_87_5arfGI

※1 https://www.eduport.mext.go.jp/summary/pilot.html
※2 http://www.bbs.bt/news/?p=118610&fbclid

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第43回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/12/27/5115/