日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

お寺と祈りとお年寄り

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

私の地元「おばあちゃんの原宿」巣鴨。毎日(特に毎月4日、14日、24日)、多くのお年寄りで賑わっています。「とげぬき地蔵」という名称で知られる高岩寺(1596年建立/1891年に上野から巣鴨に移転)の本尊・地蔵菩薩像が、厄除け、病気等に霊験がある延命地蔵尊としてお年寄りを中心に信仰されていたのがその発端とのこと。高岩寺の門前町の「巣鴨地蔵通り商店街」※1が特に有名ですが、今はお年寄りを意識したまちづくりの先進事例としても注目を集めています。

ブータンでも、お寺は祈りの場であると同時に、お年寄りが集う場所としても重要な存在です。彼らが生活しながら祈りを捧げられるよう、敷地内に小屋(お寺が管理している)が備えられているところもあります。

ちなみに、国内にはいわゆる高齢者福祉施設もいくつかあり、親類縁者がいない、もしくは家族が介護する余裕のないお年寄りが入居しています※2。かつては家族やコミュニティの繋がりの強さから、「孤児院と老人ホームはブータンにはない」、「物乞いはブータンにはいない」等と言われていましたが、状況はそう単純ではありません。それとは別に、高僧等を頼って地方から都市近くの過疎化した村に移住し、共同生活をしながら深く仏教に寄り添った余生を送る方々もいます。

お寺に行くと、より良い来世に向けて祈りに励むお年寄りを多く見かけます。また、ジェ・ケンポ(大僧正)をはじめとした高僧の説法があるとき等は、各地からお年寄りを中心に人が集まり非常に賑わいます。

村で共同生活を送る方々
境内は格好の憩いの場
高僧の説法を聞くために集った皆さん

チョルテン(仏塔)がある場所ではそれを回りながら、マニ車(回すことによって中に入っている経文を読んだことになる仏具)が設置されている場所では、それを回しながら真言を唱える姿があります。片手で持てる携帯用マニ車を回しながらチョルテンやお寺の周囲を回っているかたもたくさんいます。

五体投地(合掌した手を額・口・胸に順番に当てた後、両膝・両手・額を床(地面)につける礼拝方法)を長年繰り返し行った結果、おでこに「祈りダコ」ができているかたも見かけます。ムスリムの方々の間でもそうですが、ブータンでも信心深さの証として、祈りダコを持つ人は尊敬を集めているようです。

チョルテンやお寺を回る行為、マニ車を回す行為、そして五体投地をはじめとした祈りに関連する運動は、良いエクササイズになっているようにも思います。ブータンのお年寄りの健康の秘訣は、実はそこにあるのかもしれません。

右手に携帯用マニ車
おでこに祈りダコ。信心深さの証!

※1 https://sugamo.or.jp/

※2 例えば、国王主導の福祉プロジェクトで、2018年7月にティンプー郊外のワンシシナに設立されたものがあります。
http://www.bbs.bt/news/?p=144201(2021年2月22日のニュース映像)
https://thebhutanese.bt/his-majestys-goensho-tshamkhang-to-accommodate-up-to-78-elderly-inhabitants/(設立時の新聞記事)

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第59回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2021/03/10/5962/