日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS
酒と共に去りぬ―ブータンのお酒事情―
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大
基本的にブータンの皆さんはお酒好きです。特に東部の農村部は酒文化が濃厚で、昼間からお酒の匂いをプンプンさせているおじちゃんやおばちゃんに遭遇したり、エンドレスなお酒のおもてなしを受けることも多いです。
蒸留酒のアラ、穀物を発酵させて作るチャンケ、シンチャン、バンチャン、トンバ…等、世界の多くの国と同様にブータンにも地酒がたくさんあり、各家庭の味が楽しまれています。特にアラには、バターで炒った卵を入れたり、干した牛肉を入れたり、山椒を入れたり、生姜を入れたり、さらには冬虫夏草を入れたり(これは高級!)さまざまな飲みかたがあります。
国産のアルコール飲料も豊富に揃っています。例えば、退役軍人の福利厚生の充実を目指して立ち上げられた陸軍福祉プロジェクト(Army Welfare Project: AWP)※1が製造・販売しているもの(のうち私が知っているもの)だけでも、以下の通り山のようにあります。
【ウイスキー】
- ブータン王国建国100周年を記念して1万2,500本分のみ醸造された最高級品「1907」(1907)
- 第4代国王の戴冠25周年を記念して発売された「CSJウイスキー」(CSJ WHISKY)(※CSJはコロネーション・シルバー・ジュビリーの略)
- 第5代国王(現国王)を冠した高級スコッチウイスキー「K5」(K5)
- 「ミスピー」こと霧ヶ峰「ミスティー・ピーク」(MISTY PEAK)
- プレミアム・モルツウイスキー「ロイヤル・シュプリーム」(Royal Supreme)(※製造終了?)
- 1983年の発売以来変わらぬ人気を誇る「スペシャル・クーリエ」(SPECIAL COURIER WHISKY)
- この中では最も新しい「ブータン・グレーンウイスキー」(BHUTA GRAIN WHISKY)
- 最近ほとんど見かけない「チャンタ・ウイスキー」(Changta Whisky)(※製造終了?)
- お値打ちペットボトル入りウイスキー「ブラック・マウンテン」(Black Mountain Whisky)
【ワイン】
- 女性に大人気のピーチワイン「ズムジン」(zumzin)
- 国獣の名を冠した赤ワイン「ターキン」(TAKIN)
- シラーズを使った「木のワイン」こと「ヴィントリア」(Vintria)
- カベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワイン「レイヴン」(RAVEN CABERNET SAUVIGNON)
【ジン・ライム】
- ブータン唯一のジン・ライム「クリスタル」(Crystal Gin & Lime DUET)
【ブランデー】
- ネーミングが秀逸すぎる「ロック・ビー」(ROCK BEE)
【ウォッカ】
- 国鳥ワタリガラスを冠した「レイヴン・ウォッカ」(RAVEN VODKA)
【ラム】
- ヒマラヤ山脈の天然水から作られた「ロイヤルXXXラム」(Royal XXX Rum)
- ブータンといえば龍、龍と言えば「ドラゴン・ラム」(DRAGON RUM)(※製造終了?)
【リキュール】
- あまり見かけない「ソンフィ」(BHUTAN’S BEST SONFY LIQUOR)(※製造終了?)
【アルコポップ】
- ブータン初のアルコポップ(果汁や炭酸が入った低アルコール飲料)「フィザー」(Fizzer)(※パッションフルーツ味とオレンジ味が発売中)
少々マニアックところでは、中部のブムタン県で作られている「サンゲのピーチ・ブランデー」(Sangye’s PEACH BRANDY)、「ペンジョーラの鵲(カササギ)・アップル・ブランデー」(Penjola’s MAGPIE APPLE BRANDY)、「カドラのカンブ・スピリット(Kadola’s KHAMBU SPIRIT)」、「ピュア・アップルワイン」(Pure Apple wine)といった味のある果物系や、レモングラスオイルを使用したハーバル・ブランデー(Harbal Brandy “Chriiter”)といった変わり種もあります。ネーミングも含めその素朴さがたまりません。素朴すぎて、ブムタン県以外ではほとんど流通していません。
この10年で国産ビールの種類は激増しました。2015年の秋ごろからはそれまでの瓶ビールに加えて缶ビールも製造・販売されるようになり、色とりどりの缶ビールがレストランやバーの棚を華やかに彩っています。
例えば「ドゥク・ラガー」(DRUK Lagar)。のど越しスッキリで日本人旅行者にも人気あり。一方でブータン人に一番人気なのは、アルコール度数8%の“スーパーストロングビール”「ドゥク11000」(DRUK 11000)。都市から地方まで最も広く流通しており、他の追随を許していません。そしてプレミアム・ラガー「ドゥク・シュプリーム」(DRUK SUPREME)。これらの3つは、南部の工業地帯パサカにあるブータン・ブルワリー(Bhutan Brewery)の製品です。
次に、ブータン固有の蝶から名付けられた「ブータン・グローリー」(BHUTAN glory)。アンバーエールで、ホップ由来の強めの苦みと香りが特徴。「ドラゴン・スタウト」(DRAGON Stout)は上面発酵の黒ビールで、アルコール度数6%。「セル・ブムIPA」(SER BHUM INDIAN PALE ALE)は苦みのあるインディア・ペールエール。こちらの3つは、首都ティンプーからドチュ・ラ(峠)に向かう途中のホンツォに拠点を置くセル・ブム・ブルワリー(Ser Bhum Brewery)※3の製品です。デザインを新しくした小型(330ml)の缶ビールも発売中!
まだまだあります。「あなたの喉の渇きを癒す」(“Quench Your Thirst”)とのラベルの文言がアツい「チャブチュ」(CHABCHHU)、プレミアム・ラガー「ドラゴン・フロスト」(DRAGON FROST)、ドゥク11000を超えられるか!?「サンダー15000」(THUNDER 15000)。これらの3つは、パサカのキンジョール・ブルワリー(Kinjore Brewery)の製品で、ヒマラヤ山脈のスプリングウォーターを使用していることを売りにしています。後者2つのラベルには「すべての人に幸せを」(“Happiness for All”)と書かれていて、何だかほっこり。
BHUTANESEブランドの「ダーク・エール」(DARK ALE)、「ウィート・ビール」(WHEAT BEER)、「レッドライス・ラガー」(RED RICE LAGAR)は、パロのナムゲイ職人ブルワリー(Namgay Artisanal Brewery)が売り出したビールです。流通しはじめて1年ちょっとくらいでしょうか。シンプルに統一されたラベルがかわいいです。特に赤米ラガーはインパクトがあり話題性抜群。工場は見学(飲み比べも)可。アップル・サイダーも作っています。
最後に「レッパン」こと「レッドパンダ」(RED PANDA)。これを紹介しないと終われません。スイスの技術導入のもとブムタン・ブルワリー(Bumthang Brewery)で製造が開始されたこのビールは、記念すべきブータン国産ビール第1号。無濾過のため濁っている白ビールで、酵母の香りが強く味はまろやか&ほんのりフルーティ。どうも好き嫌いが分かれるようですが、ブムタンが大好きな私は当然レッパンも大好きです。工場は見学可。見学後、おみやげにレッパン(瓶)1本もらえます。さらに、隣りにあるお店(Bumthang Swiss Cheese and Wine Shop)ではサーバーで注いだレッパンを飲むこともできます。スイスチーズをつまみにガブリ。美味!
ちなみに、レッドパンダとはレッサーパンダのことです。風太くん!!
改めて国産のアルコール飲料を挙げてみたら、その種類の多さにびっくり仰天ヤラマ~!(ブータンの言葉で「あらま~!」)です。ビールだけでも10種類以上。ウイスキーもほぼ10種類。町には商品化したアラなんかも売られており、「江戸の飲み倒れ」ならぬ「ブータンの飲み倒れ」も相当なものでしょう。
※1 http://www.awpbhutan.com/
※2 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/04/27/3403/
※3 http://serbhumbrewery.com/
WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第30回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/03/04/4229/