日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

本屋をめぐる冒険(後編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

前編では時計塔広場周辺の本屋を巡りましたが、後編はティンプーの目抜き通りノルジン・ラムを北上していきます。

【ペ・カン】
ジャンクションから3分ほど歩くと、映画館ルーガル・シアターの建物内にある「ペ・カン」(PE KHANG ENTERPRISES)が見えてきます。店内の半分ほどは文房具売り場になっており、奥のほうにはチベット仏教関連本の専用コーナーがあります。最近はヨガ関連の本もたくさん売っています。

ティンプーの本屋では、以前は日本の漫画(英訳されたものです)というと手塚治虫の『ブッダ』くらいしか見かけませんでしたが、昨年ごろから『NARUTO』、『ONE PIECE』、『BLEACH』、『DEATH NOTE』、『バクマン。』、『ドラゴンボール』をはじめとした少年ジャンプ系の漫画の進出が激しく、非常に目立つようになってきました。この店に鎮座する円柱の本棚は日本の漫画専用棚となっており、漫画に関しては国内随一の品揃え!ちなみに1冊499ヌルタム(約850円)。なかなかの高級品です。

建物の右側にあるのがペ・カンの入口。入口は小さいけれど、中はけっこう広いです。

文房具の品揃えもピカイチ。

日本の漫画コーナー。やはり、『NARUTO』と『ONE PIECE』は二大巨頭。

【KMT書店】
ペ・カンから5分ほどノルジン・ラムを北上すると、出版・印刷業を母体とするKMTグループ―名前の由来は創業者のクンザン・トブゲ(Kunzang Tobgye)、マニ・ドルジ(Mani Dorji)、テンジン(Tenzin)3人の頭文字です―が経営する異色の本屋「KMT書店」(KMT YANGKHIL)にたどり着きます。

KMTが印刷・出版している本は圧倒的にチベット仏教関係のものが多く、他の多くの本屋と違いここで売られている本の90%はゾンカ(ブータンの国語)もしくはチョケ(古典チベット語)で書かれたものです。お客さんはお坊さんやお寺の関係者が多く、本の他にも、ジェ・ケンポ(大僧正)をはじめとした偉いお坊さんのブロマイド、ツァツァ(ミニ仏塔)やマニ車(円筒形の転経器)の中に入れるロール状の経文、大量印刷した仏画といったKMTで製造している印刷物はもちろん、仏像、鐃鈸、人間の大腿骨で作った笛、線香、経文旗、ツァツァ、マニ車(ソーラーマニ車も)等さまざまな仏具が売られています。

個人の興味関心としては、ここで買っておきたい本はロポン・ペマラことラム・ペマ・ツェリン(Lam Pema Tshewang)著/ジャガル・ドルジ(Jagar Dorji)翻訳の『ブータンの歴史』(History of Bhutan: The Luminous Mirror to the Land of the Dragon)ですが、この店で最も注目すべきものは経典かもしれません。壁一面の仏教関連本とは別に、ブッダの教えの集大成である経典もかなり取り揃えられています。KMTで印刷したものを直売しているので、他よりも「お求めやすい価格」になっているのだとか。

KMT書店の入口から中を覗く。他の本屋との違いが一目瞭然…。

偉いお坊さんのブロマイド。

ロール状の経文。お経を印刷した紙がグルグル巻きになっています。

仏具満載の店内。

大きめの仏像も売っています。

壁一面の仏教関連本。中には辞書や児童書(ゾンカで書かれたブータンの物語等)も。

経典コーナー。

経典の中身はこんな感じです。

【国立図書館の本屋】
KMT書店からさらに北に進み、ノルジン・ラムの端から続くチョペル・ラムという通りをゴルフ場に向かって行ったところに国立図書館(より正確には国立図書館兼公文書館)※1があります。ここには本屋が付設されており、国立図書館出版がこれまでに発行した木版印刷(!)の経典や偉いお坊さんの伝記、地方に伝わる物語集等が売られています。特にお薦めしたいのは、1999年に出版されたディグラム・ナムジャ―ブータンの「伝統」を守るうえで必要なさまざまな規律や礼儀作法―のマニュアル本。前半がゾンカ版・後半が英語版という作りで、イラストも多く非常に分かりやすいです。現代ブータンを知るための必読書と言っても過言ではありません。お値段300ヌルタム(約510円)。

この本屋、営業時間は一応「夏:9:00-17:00/冬:9:00-16:00)となってはいますが、お客さんがほとんど来ないのでかなりの確率で閉まっています。ただし、閉まっているときは看板に書いてある携帯番号に電話をすれば、どこからともなくおじさんが出てきて開けてくれます。

国立図書館の本屋。たいてい閉まっています。

売られているものは経典中心。

駆け足でティンプーの7軒の本屋をハシゴし、ざっくりとレポートしてみました。国内に10軒ちょっとほどしかないであろう本屋のうちの7軒ですが、それぞれに個性があり、客層も異なり、確かな棲み分けがなされています。このような「他との差別化」要素が比較的少ない(ように見受けらえる)ブータン社会においては、本屋はどちらかというと異質な存在なのかもしれません。

※1 国立図書館ウェブサイト http://www.library.gov.bt/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第18回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/05/18/3432/