日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS
コロナ禍の中での学校
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大
2020年3月5日の夜に、ブータン国内で初めてコロナ陽性者が確認されました。発症したのは76歳のアメリカ人旅行者で、翌6日には、彼が訪れたティンプー、パロ、プナカ県の学校やオフィスの閉鎖、外国人観光客の受入停止等が発表されました。そして、早々に学校閉鎖はこの3県から全国20県に拡大し、3月25日からは主にテレビ放送を活用したE-learningプログラムがはじまりました。
その後、特に公立学校はほとんどただの休校状態が続いていましたが、6月には、「クラスPP(第1学年前の準備教育の学年)~クラス6(第6学年)=小学校は、今年度は対面授業をしない」、「全国統一の修了試験があるクラス10(第10学年)とクラス12(第12学年)は、7月1日に対面授業を再開する」、「その他の学年は様子を見ながら対面授業を再開する」旨が通達され、徐々に動き出してきました。
コロナ予防啓発(2020年2月撮影)
パロ空港での入国時の検温・消毒(2020年2月撮影)
ブータンの学校段階は初等教育が7年間、前期中等教育が2年間、中期中等教育が2年間、後期中等教育が2年間なので、「7-2-2-2制」と表すことができます。学年の呼びかたは日本のように「中学3年」、「高校2年」などと変化せず、「クラス1」(第1学年)から最終の「クラス12」(第12学年)まで順に数字が上がっていきます。また、クラス1の前にはクラスPP(Pre Primary)という1年間の準備教育があります。近年は、小学校入学前にECCDセンター(Early Childhood Care and Development Centre)という幼稚園に通う子どもも増えてきています。
ティンプーの小学校の授業風景
ブムタンの幼稚園の子どもたち
学校の教授言語はゾンカ(国語)ではなく英語で、ほとんどの教科は英語で教えられています。制服は民族衣装で、朝礼では国歌と文殊菩薩に捧げる歌(祈り)が歌われます。また日本とは違い自動進級制が採られていないので、例えば小学生でも出席日数が足りなかったり成績が悪かったりすると留年します。義務教育制度はなく、チベット仏教の僧侶を目指す子どもたちは僧院学校(お坊さんの養成機関)に通っています。
ポブジカの小学校の朝礼風景
ブムタンの僧院学校の昼食風景
2020年8月11日午前3時15分、中東からの帰国者が3週間の隔離後、サルパン県ゲレフの自宅に帰ったところで発症したという速報を受け、非常事態宣言が発令されました。濃厚接触者が広範囲に及ぶことから全国一律で外出禁止となり、学校も再び閉鎖。結局このロックダウンはその後3週間続き、クラス9以上の対面授業は9月中旬に再開されました(クラスPP~6だけでなく、クラス7~8も今年度は対面授業を実施しないことになりました)。
2020年10月12日現在、ブータン国内のコロナ感染者は累計309人となっています。幸い死者は出ていませんが、特にインドとの国境の町プンツォリンは感染者が多く、厳重警戒体制が続いています。「プンツォリンでの対面授業の再開はもう無理だ!」と判断した政府は、「内地」であるプナカ県やワンデュ・ポダン県の各学校にクラス9~12の生徒と教職員を集団疎開させ、対面授業を再開させました。例えばプンツォリン中学校の生徒は今、(対面授業が実施されていないため使われていなかった)プナカ県のティンレイガン小学校を借りて授業を受けています。来年2~3月までは、この状況が続く予定とのこと。
プンツォリンの国境ゲート。ゲートの向こう側はインドの町ジャイガオン
保健省が毎日更新している「COVID-19 in Bhutan」※1
人口約70万人の小国であるブータンは、このような緊急事態の際には小回りが利いて、学校教育に関する判断も(賛否両論がありますが)非常に大胆です。ブータンの現首相はお医者さんで、保健大臣も公衆衛生の専門家で、さらに外務大臣もお医者さんのため、政府はコロナ禍の中でも適切な判断ができているという話もありますが、とにかく今後の動向から目が離せません。
※1 https://www.facebook.com/MoHBhutan/
WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第55回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/10/15/5728/