日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

ビールをめぐる冒険

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

ブータンつれづれ(第30回)「酒と共に去りぬ―ブータンのお酒事情―」※1でビール特集をした際に取り上げたBHUTANESEブランドの「レッドライス・ラガー」(Red Rice Lager)、「ダーク・エール」(Dark Ale)、「ウィート・ビール」(Wheat Beer)。シンプルに統一されたラベルがかわいいこの赤米ラガー、黒ビール、白ビールの三兄弟を製造・販売しているのは、NAB(Namgay Artisanal Brewery)※2という小規模ブルワリーです。

2016年にパロのダンシブ地区(パロ国際空港のパロ川を挟んだ対岸)に設立されたNABは、ブータンのビール文化を促進し、地元の食材を使った「100%地ビール(100% local beer)」を作ることを目指して事業を展開しています。

NABが製造・販売しているBHUTANESEブランドのビール

NAB。ブルワリーとビストロ&タップルーム(バー)が併設されています

おしゃれなNABのウェブサイト

実はNABでは上記の赤米ラガー、黒ビール、白ビールの他にも5種類(!)、合計8種類のビールを製造していますが、ずばり一番人気は主原料の麦芽・ホップ・水に加え副原料としてパロ産の赤米を使用した赤米ラガー。その製造過程を覗かせていただきました。

まずは製麦。浸麦→発芽→焙燥(乾燥)→除根という作業が行われますが、つまりはビール大麦を溶けやすく分解されやすい状態の麦芽に加工します。

麦芽製造機

次に仕込み。細かく砕いた麦芽とパロ産の赤米を温水と混ぜ合わせます。それがドロドロの糖化液(マイシェ)の状態になったらろ過してホップを加えひたすら煮沸。こうしてできた熱麦汁(麦ジュース)を発酵工程に移します。

仕込みタンク

それぞれのタンクで異なる種類のビールを仕込んでいます

発酵工程では、熱麦汁を約5℃に冷却し酵母を加えて主発酵タンクに入れます。酵母の働きによって、下面発酵(ラガー)の場合は10日間前後、上面発酵(エール)の場合は5日間前後で麦汁中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解されるとのこと。いわゆる若ビール(発酵が終了した発酵液)がこうしてできあがります。

その後若ビールを後発酵(貯酒)タンクに移し、約0℃の低温で数十日間貯蔵。この間に若ビールはゆっくり熟成され、炭酸ガスの溶解によってビールの味と香りが生まれます。熟成の終わったビールはろ過され、いよいよ完成!

主発酵タンク

後発酵タンク

最後の行程はパッケージング。瓶に詰め、打栓し、ラベルを貼って、24本でひとつの段ボールに箱詰めし出荷できる状態にします。箱詰め以外すべての作業がオートメーションで先進的!

パッケージング作業エリア

びん詰め→打栓→ラベル貼りと自動で流れていきます

赤米ラガーのラベル

出荷待ちの、箱詰めされた赤米ラガー

さて、NABが製造している8種類のビールとアルコール度数は以下の通り。この小さいブルワリーでこんなに多くの種類のビールが作られているとは驚きです。

① レッドライス・ラガー(Red Rice Lager) 6.5%
② ダーク・エール(Dark Ale) 6.0%
③ ウィート・ビール(Wheat Beer) 4.5%
④ インディア・ペールエール(Indian Pale Ale) 6.0%
⑤ アップル・サイダー(Apple Cider) 4.7%
⑥ ミルク・スタウト(Milk Stout) 6.0%
⑦ ピルスナー(Pilsner) 5.5%
⑧ パイナップル・グース(Pineapple Goose) 5.0%

左から順番に①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧

価格表。4リットルタワーや5リットルタワーも!

ティンプーやパロのレストラン、スーパーマーケットを中心に販売されているのは主にレッドライス・ラガー(赤米ラガー)、ダーク・エール(黒ビール)、ウィート・ビール(白ビール)の3種類(すべて1杯100Nu≒150円)。アップル・サイダーとミルク・スタウトもお店で見かけます。

IPAことインディア・ペールエールは、かつてイギリスから英領インドへの海上輸送を可能にするため、劣化防止効果を持つホップを大量に使用して作られたビール。そのため香りと苦みが非常に強いです。1杯125Nu≒187.5円。

アップル・サイダーはいわゆるシードルビールで、りんごのお酒です。イギリスではりんごのお酒を「サイダー」と言うようですが、それを知らなかった私は初めてアップル・サイダーを飲んだとき、これがサイダー!?と衝撃を受けました(日本語の「サイダー」は実は和製英語らしいです)。1杯120Nu≒180円。

ミルク・スタウトは真っ黒なエールビールで、コーヒーのような甘い香りとほろ苦い味わいが特徴。ミルク由来の乳糖(ラクトース)を加えて作られています。「スタウト」は英語で「どっしりとした、頑強な」という意味で、アルコール度数も若干高め。1杯100Nu≒150円。

ピルスナーは日本人には馴染みのある、スッキリとしたのど越しの金色のラガービール。世界のビールの大半はこのピルスナーで、ブータンでよく飲まれている「ドゥク11000」(Druk 11000)や「ドゥク・ラガー」(Druk Lagar)もこれにあたります。1杯110Nu≒165円。

変わり種のパイナップル・グースは副原料にパイナップルを使用したフルーツビールで、泡までほんのり甘いパイナップル風味。試行錯誤を繰り返して今のかたちに落ち着いた逸品で、他よりも倍、もしくは倍近い値段のする高級ビールです。1杯200Nu≒300円。

タップルームでは試飲も可能

NABでは、ブルワリー見学のみ250Nu(約375円)/人、ブルワリー見学+8種類のビールの試飲450Nu(約675円)/人で社会科見学をすることができます(火曜定休、要予約)。

ブータン好き兼ビール好きの人は、それにとどまらず、南部の工業地帯パサカにあるブータン・ブルワリー(Bhutan Brewery)とキンジョール・ブルワリー(Kinjore Brewery)、パロのNAB、首都ティンプーからドチュ・ラ(峠)に向かう途中のホンツォにあるセル・ブム・ブルワリー(Ser Bhum Brewery)、ブータン国産ビール第1号「レッドパンダ」(Red Panda)を作っているブムタンのブムタン・ブルワリー(Bumthang Brewery)…と、各地でブルワリーを巡る全国ツアーを決行してみても良いかもしれません。

※1 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/03/04/4229/
※2 http://bhutanesebeer.com/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第41回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/10/11/4881/