日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

スマホと坊主とエトセトラ

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター助教 平山雄大

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学生と話すお坊さんの膝元には充電中のスマホ…

ヒマラヤ山脈の麓に位置する小国ブータンのことを研究している、WAVOC助教の平山雄大です。この「ブータンつれづれ」では、普段あまりメディア等で取り上げられない、ブータンの知られざる側面を紹介していきたいと思います。第1回は、ブータンのスマホ事情についてです。

「スマホ」というものを私が初めて目にしたのは、ブータンでのことでした。2007年8月、首都のティンプーで、知り合いの社長(ブータン人)がiPhoneを持っていたのです。当時、日本ではまだ販売されておらず、もちろんブータンでも売っていませんが、社長はその1ヵ月ほど前にアメリカで発売された初代iPhoneを、「クール!」という理由で手に入れて、B-mobile(ブータンの携帯キャリア)のSIMカードを入れて使っていたのです。

この社長に限らず、「新しもの好き」というのは、ブータンの人の多くに当てはまります。彼らに古いものへの執着はあまりありません。そもそも、古色蒼然としたものに価値や貴さを見出す感覚(=古いものを古いまま残す感覚)は、ブータンでは一般的ではなさそうです。ひたすらに今を生き、過去を振り返らない国民性と言っても良いかもしれません。ブータン政府は、伝統的な価値観や文化を大切にしながら国家開発を行っていこうとしていますが、「新しい!」「便利でおしゃれ!」「ナウでヤング!」なものは生活にどんどん浸透していっています。

スマホは、「新しさ」と「便利さ」と「格好良さ」が融合し、ここ数年で一気に広まったものの代表格です。ブータンで携帯サービスが開始されたのは2003年のことですが、2005年の時点でたったの5.96%だった携帯普及率は、10年後の2015年にはなんと87.06%にまで上がっています※。小さな子どもや田舎の爺さま婆さまを除くと、今はほぼ全員が持っているのではないでしょうか。

ブータンではチベット仏教が実質的な国教となっていますが、スマホ事情はお坊さん社会でも例外ではありません。読経の最中に、袖のあたりでこっそりスマホをいじってFacebookやWeChatをしている小坊主ちゃん、という光景も見かけるようになりました。最近は、お経アプリもたくさん開発されています。スマホ片手にお経を学ぶ学僧が、これからどんどん増えていくことでしょう。

※Policy and Planning Division, Ministry of Information and Communications (MoIC) (2016) Annual Info-Comm and Transport Statistical Bulletin (7th Edition, 2016), Thimphu: MoIC, p.10.

WAVOCブータンコラム「助教 平山のブータンつれづれ(第1回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2016/11/28/2278/