日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

トゥントゥン祭りとトゥントゥン踊り

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

ワンデュ・ポダン県ポブジカにあるガンテ・ゴンパというお寺で、第4代国王(前国王)の誕生日に合わせて、毎年11月11日に「トゥントゥン(オグロヅル)祭り」が開かれています。昨年ちょうど20周年でした。

ブータンには毎年、チベットからヒマラヤ山脈を越えてオグロヅル(英語名black-necked craneを直訳するとクビグロヅル/確かに尾も首も黒い!)が飛来します。ブータンで「トゥントゥン」と呼ばれ愛されているオグロヅルは、越冬のために10月終わりから3月中旬~下旬までブータンで過ごし子育てを行いますが、最も多くのトゥントゥンが飛来するのが標高3,000メートルほどのこのポブジカ谷です。トゥントゥンはたいへんお利口さんで信心深く、春にまたチベットに向かう際にはガンテ・ゴンパの上空を時計回りに3度旋回して(=お祈りして)から飛び立つと言われています。

環境立国を標榜しているブータンはトゥントゥンを人と野生動物の共生のシンボルと位置づけ、王立自然保護協会(Royal Society for Protection of Nature: RSPN)※1が中心となって保護活動・啓蒙活動・観光開発・その他関連する諸活動を展開しています。

お祭り当日、ポブジカ谷の朝。

RSPNのウェブサイト。

ケガをして飛べなくなり、RSPNに保護されているトゥントゥン「カルマ」。

1613年に建てられたガンテ・ゴンパはブータン西部最大のニンマ派(チベット仏教の宗派のひとつ)寺院で、座主である歴代活仏(=代々生まれ変わりが受け継ぐ)ガンテ・トゥルクは宗教的権威として非常に大きな力を有しています。ニンマ派は出家して戒律を守る僧侶のほかに「ゴムチェン」と呼ばれる在家僧が多いことが特徴で、ガンテ・ゴンパの参道の両脇及び周囲にはゴムチェンの家が立ち並んでいます。

トゥントゥン祭り当日のガンテ・ゴンパ境内。

観客の中には、在家僧(ゴムチェン)もたくさん。

さて、そんなガンテ・ゴンパで開催されるトゥントゥン祭りは観光開発と地域振興を掛け合わせた地域密着型のお祭りで、地元の学校の子どもたちによる学芸発表会的要素も強く、ほっこり度合いがかなりお高めです。

催し物一覧を確認すると、2017年のお祭りでは、最後の表彰式及び全員が輪になって踊る「タシレベ」を除いた23の演目のうち14演目が地元の学校の子どもたちによるもの、6演目が地元の大人たちによるもの、そして残りの3演目が僧侶によるもの(仮面舞踊)となっています。中には「風船割り競争」や「地区対抗綱引き」も!

2017年の催し物一覧。

地元の学校の子どもたちによる踊り(リグサル)。

地区対抗綱引き。各地区の屈強な男性10人が代表に。

出番直前、仮面を装着する僧侶。

中でも目を引くのが、トゥントゥン祭りの目玉「トゥントゥン踊り」です。これはつまり子どもたちがトゥントゥンに扮して舞うというもので、大変かわいらしくまたインパクト大。衣装にツルの頭を被るのですが、鼻の下で泥棒風に紐を結ぶ子、あごの下で普通(?)に紐を結ぶ子、さらに黒色のマスクをしてよりトゥントゥンっぽさを出す子とさまざま。その姿はまるで科学忍者隊ガッチャマンこと大鷲の健(G-1号)だ…と言う人もいるとかいないとか。ツルとオオワシの違いはありますが、実際色合いもよく似ております。

ガッチャマン的な子どもトゥントゥンたち。

子どもトゥントゥンの群舞。

ラストは3度旋回して、チベットに向けて飛び立っていきます。

出番直前、スタンバイする子どもトゥントゥンたち。

ブータンに飛来したトゥントゥンを間近で見たいかた、そしてガッチャマン的な子どもトゥントゥンたちに会いたいかたは、ぜひ11月11日のトゥントゥン祭りにスケジュールを合わせてポブジカへ。

※おまけ:お祭り当日、楽屋となっている本堂でくつろぐ子どもトゥントゥンたち。

※1 http://www.rspnbhutan.org/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第32回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/03/18/4260/