日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

第2回日本ブータン研究会を開催

日本ブータン研究会事務局 須藤 伸

5月13日(日)、東京・広尾のJICA地球ひろばにて「第2回日本ブータン研究会」が開催された。この研究会は、ブータンをフィールドにしている研究者や大学院生が日頃の研究の成果を披露し、意見交換を行う場を目指して昨年から開催されている。私と平山雄大(共に日本ブータン友好協会及びGNH研究所会員)が中心になって企画しており、今年で2回目を迎えた。

今年は研究分野の異なる4組の研究者が発表を申し出てくださり、ブータンを捉える視点も多様で内容の濃い研究会となった。また、歴史も浅く、認知度もまだまだ低い研究会ではあるが、昨年を大幅に上回る51名もの参加者があり、非常に活発な質疑が行われた。今年はブータンに関する社会的関心の高さもあってか、参加申し込みの段階で会場がいっぱいになってしまうのではないかと、主催者としても心配になったほどである。いずれにしても、ブータンに特化した学術的研究にこれだけ多くの人が注目し、参加してくださるとはうれしいことである。

今回の研究会では比較的研究歴の長い発表者が多かったこともあり、昨年にも増して専門的な発表とレベルの高い質疑応答が繰り広げられた。

発表タイトルと発表者は以下の通りである。

発表① 「ブータンにおける教員養成と学校教育の現状と課題」
都甲 由紀子(大分大学教育福祉科学部講師)
川田 菜穂子(大分大学教育福祉科学部講師)

発表② 「ブータン諸語の記述・歴史言語学的研究の現状」
西田 文信(秋田大学国際交流センター准教授)

発表③ 「ブータン国家環境保護法の特徴について」
諸橋 邦彦(国立国会図書館調査及び立法考査局農林環境課調査員)

発表④ 「ブータンの漆工技法と漆器産地の現状」
北川 美穂(古典塗装技法材料研究家/東北芸術工科大学非常勤講師)
松島 さくら子(宇都宮大学教育学部准教授)※都合により欠席

発表を簡単に紹介する。

都甲さん、川田さんからの「ブータンにおける教員養成と学校教育の現状と課題」では、今年の3月24日から4月3日にかけて行われた最新のブータン現地調査に基づいた分析のレビューがなされた。特に、ブータンの都市部では教育に対して過剰に力が入れられており生徒たちは必要以上に高いレベルの教育を受けようとしていること、その一方で地方との格差はますます拡大しつつあること、また教育の質(教員の質)の確保が喫緊の課題であるといった指摘がなされた。

世界に数名しかいないブータン言語研究者の一人である西田さん(日本ブータン友好協会会員)からは、膨大な文献と意欲的なフィールドワークから得られたデータをもとにした「ブータン諸語の記述・歴史言語学的研究の現状」と題する発表がなされた。ブータンの言語の中でもかなり古い部類のマンデビ語に関する研究状況を中心として、ブータン諸言語の特徴から、フィールドワークの仕方まで、持ち時間ではおさまりきらないくらい濃い内容をご紹介いただいた。

諸橋さんによる発表「ブータン国家環境保護法の特徴について」では、ブータン国家環境保護法の成立過程とその特異性、英語とゾンカで書かれた法律の相違点等が明らかにされた。その中で、法令による規制はされていても、その運用には大きな課題が残されているという指摘があった。参加者からは「環境基本法に建築規制や都市開発規制等はあるのか」「ブータンで野焼きは法律上制限されているのか」といった質問が多く出され、活発な議論が交わされた。

最後に、「ブータンの漆工技法と漆器産地の現状」と題する北川さんの発表では、写真や映像を交えた漆工技法とその制作過程の詳細な紹介がなされた。ブータンの技法の特徴として、漆にバターを混ぜる工法があるという。一般的に漆に油分を混ぜることはタブーとされているが、漆のかさを増し、木目が見えるよう漆を薄く塗るための工夫ではないかとのことであった。

コメンテーターとしてご出席いただいた日本ブータン友好協会副会長の森靖之氏としても、最近はブータンに関する情報が過熱気味であり、情報の質が問われる中で、学術的な視点からブータンを捉える機会の必要性を以前から感じていたようである。同時に、非常に内容の濃い研究会であったと評価のコメントをいただいた。これも発表者及び参加者の皆さんのおかげである。

研究会後には、JICA地球ひろば1階のカフェ・フロンティアにて懇親会が開催された。店長さんのご厚意でブータン料理パクシャパが用意され、楽しく親睦を深めつつ、発表者を囲んで聞きたいことをざっくばらんに話し合う時間を持つことができた。ブータン研究に携わる者同士のネットワークづくりも当研究会の目的の一つであるが、その趣旨が十分に達成されたものと感じている。

この研究会がそれぞれの研究者や参加者の新しい発見の場となり、これからの研究や活動の一助となれば私ども主催者としても幸いである。ひいてはこの研究会の継続を通して、将来的には多少なりとも日本におけるブータン研究の発展に貢献することができれば、これ以上にうれしいことはない。

当初は、「日本ブータン研究会」という大げさな名前に主催者としても不安を感じていたが、遠く北は秋田、南は大分からお越しくださった研究者と多くの参加者の皆さんのおかげで、ようやく名前にふさわしい会になったのではないかと感じている。

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第115号、2-3頁より転載。