日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS
これまでのブータン実習を振り返る
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大
ブータン実習とは、早稲田大学で開講されているブータンをフィールドとした海外実習科目(学部学年を問わず、興味関心のある学生が履修できるオープン科目)の、夏に行われる2週間の実習を指します。私がWAVOCに着任した2016年度に、既存の科目「南アジアから学ぶ途上国の農村開発」の実習先を前年のバングラデシュからブータンに変更して行ったのがその始まりです。2017年度からはそのノウハウを引き継ぐと同時に装いを新たにし、「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」という科目名で実施しています。
もう10年以上前になりますが、2006年から2008年までの3年間、早稲田には「地球体験から学ぶ異文化理解―ブータン王国での実践を通して学ぶ―」(※1)というブータンを訪問する海外実習科目がありました。私は当時TAとして毎年この科目に関わっていましたが、そのときの経験も上記ブータン実習の運営に反映させています。
この海外実習科目は、厳密には「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解1」(春クォーター・金5時限、1単位)及び「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解 2」(夏季集中+秋クォーター・金5時限、3単位)という2つの科目から成っており、履修生は4月の時点で双方とも履修登録する必要があります。
前者は事前学習を目的とし、全8回の授業の中で、グループ発表等を通した知識の習得と各履修生の研究課題の設定を行います。また、履修生の興味関心をもとに8月の実習の内容や訪問先を詰めていきます。後者は2週間の実習と事後学習から構成されています。実習では、各履修生が設定した研究課題に関連する諸機関の訪問や関係者へのインタビュー・アンケート等を通して研究を深化させると同時に、ブータンに根づく文化・価値観・生活様式等に触れ、異文化への自分なりの対峙の仕方を模索することを試みています。また、事後学習ではそれを振り返り、報告書作成等を行っています。
科目全体の到達目標は以下の通り。
- 漠然とした興味関心・問題意識を、学術的な研究課題として組み立てまとめる力を養う。
- 実習の企画・運営・実践を通して、チーム・ビルディング及びプロジェクト推進の方法を知る。
- 他者とのコミュニケーションの実践を通して、異文化を理解する力を養う。
- 体験的学習を通して自らを深くとらえ直し、将来の職業選択、生き方、夢の実現への一助とする。
ひとつ大きなポイントは、このブータン実習は「どこに行くか」「何をやるか」「誰に会うか」「どこに泊まるか」最初から決まったものは何もない……つまり履修生全員で2週間の実習をどう組み立てるかを話し合い、作り出していく点です。事前学習で履修生各自が設定する研究課題にしたがって、行き先や内容は変幻自在!
毎年、「農家の暮らしに接したい」「農業関係の専門家のかたにお話を聞きたい」「学校で教員や生徒と交流したい」「各地の市場を比較したい」「GNH政策に関してのレクチャーを受けたい」「できる限り仏教美術を見て回りたい」「都市と地方の病院の違いを知りたい」「都会の若者にインタビューしたい」「水力発電の現場を視察したい」……といった研究課題に直接関連するリクエストから、「○○○○を食べたい」「○○○○という寺院に行きたい」「ガサ温泉につかりたい」「ヤクを見たい」……といった単純な(研究課題に直接関連しない?)リクエストまで多めに出し合い、移動距離・時間、日数、体力、重要度を考慮に入れて実現可能性を検討し、スケジュールを組み立て、アポ取りに力を入れてきました。
2016年度と2018年度はブムタン(※2)まで、2017年度と2019年度はポブジカまで足を延ばし農家でのホームステイを行いつつ、特に首都ティンプーでは教育省、新聞社、テレビ局、RSPN(Royal Society for Protection of Nature)、CPA(Chithuen Phendhey Association)といった諸機関を訪問したり、JICAブータン事務所長やGNH委員会プログラム・オフィサーのかたからお話を伺ったりしながら研究を遂行しました。個人的には、それぞれの年度で以下のことが特に強く印象に残っています。
- 2016年度:3泊4日のブムタン(ワンデュチョリン村)での農家ホームステイ。風呂なし生活に順応していく履修生の皆がアツかったです。
- 2017年度:南部地域の文化とインドとの関係性を知るため、国境の町プンツォリン(※3)まで足を延ばしたこと。こちらは気温もアツかった。
- 2018年度:実施に当たり、東部に行くか(=インドのアッサム州から陸路で入出国するか)西部・中部に行くか(=国際空港のあるパロから入出国するか)履修生皆で激論を交わしたこと。有意義な時間でした。
- 2019年度:プナツァンチュ水力発電所の現場視察。とにかく視察許可を取るのがすごく大変で、自分にとっても刺激的な挑戦でした。
決して長くはないブータン実習中に履修生の学びをどう深められるか、チームでの協働や他者とのコミュニケーションの実践の仕組みをどう作れるかは常に試行錯誤の繰り返しです。実習中は毎夜振り返りを行いますが、履修生の鋭い指摘や考察から学ばされることも多く、内容を含めまだまだ改善の余地があると感じています。また、どうしても各自の自己負担額が高くなってしまう渡航費をどこまで抑えられるかも課題として残っています。
「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」は2020年度も開講されます。5年目となるブータン実習がどう進化するか、どうぞお楽しみに。
【参考】
科目紹介「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」(2018年度履修生の声)
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/02/21/4191/
※1 現場レポート「ブータン・スマイル―地球体験から学ぶ異文化理解inブータン―」
http://www.waseda.jp/student/weekly/contents/2006b/104k.html
※2 平山雄大のブータンつれづれ(第23回)「ブムタンから現代ブータンを考える」
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/11/19/3882/
※3 平山雄大のブータンつれづれ(第25回)「国境の町のこと―プンツォリン編―」
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/12/07/3933/
WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第44回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/01/07/5141/