日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

IMTRATのお店をめぐる冒険(後編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

ハ・ゾンの敷地内にあるインド軍事訓練チーム(Indian Military Training Team)、通称IMTRAT(イントラット)のお店探訪。次は酒屋を覗いてみましょう。

IMTRATのお店全景

「スピリッツ」(厳密には蒸溜酒を指します)と書かれたドアを開けた先にあるのは、蒸留酒に限らずウイスキー、ワイン、ウォッカ、ビールが陳列された小部屋。扱うお酒はまさかの9割ブータン産※1。インドのものはキングフィッシャー(ビール)しかありません。ビール以外のお酒のお値段は市場より50~100ヌルタム(約80~160円)程度安め。ただし一部は市場より若干高め。なぜでしょう。以下、料金をまとめました。

【ウイスキー】

  • 「ミスピー」こと霧ヶ峰「ミスティー・ピーク」(MISTY PEAK)=755ヌルタム(約1,200円)
  • 1983年の発売以来変わらぬ人気を誇る「スペシャル・クーリエ」(SPECIAL COURIER WHISKY)=275ヌルタム(約440円)
  • この中では最も新しい「ブータン・グレーンウイスキー」(BHUTAN GRAIN WHISKY)=188ヌルタム(約300円)
  • お値打ちペットボトル入りウイスキー(しかしこの酒屋では瓶入りで売られていました)「ブラック・マウンテン」(Black Mountain Whisky)=110ヌルタム(約175円)

【ワイン】

  • 女性に大人気のピーチワイン「ズムジン」(zumzin)=188ヌルタム(約300円)
  • 国獣の名を冠した赤ワイン「ターキン」(TAKIN)=125ヌルタム(約200円)
  • シラーズを使った「木のワイン」こと「ヴィントリア」(Vintria)=292ヌルタム(約470円)

【ウォッカ】

  • 国鳥ワタリガラスを冠した「レイヴン・ウォッカ」(RAVEN VODKA)=235ヌルタム(約375円)

そしてビール。これは目を疑いました。市場の3分の1から4分の1ほどでしょうか、1瓶25ヌルタム(約40円)の世界です。インドとブータン両国の取り決めの結果この値段設定に落ち着いたそうですが、へべれけ軍人が続出して問題になりやしないか、俄かに不安になってしまう激安っぷりです。

【ビール】

  • アルコール度数8%の“スーパーストロングビール”「ドゥク11000」(DRUK 11000)=25ヌルタム(約40円)
  • のど越しスッキリ「ドゥク・ラガー」(DRUK Lager)=25ヌルタム(約40円)
  • プレミアム・ラガー「ドゥク・シュプリーム」(DRUK SUPREME)=29ヌルタム(約45円)

ヒンディー語と英語が併記されている酒屋のドア

陳列されたお酒の数々(9割はブータン産)

ありえない値段設定のブータンビール

最後にお邪魔するのは雑貨屋。入口に「スーベニアショップ」とある通り、けっこうな種類のブータンみやげを扱っています。短期・長期でインドから赴任した皆さんが、ここでおみやげを買って帰国する由。ブータンっぽい財布やバッグ、ミニ経文旗、王様グッズ、Tシャツ、キーホルダーの類から、全然ブータンっぽくない(そもそもブータンで作られていない?)仏像まで。これらも市場より安めの値段設定。

雑貨屋の入口。最新入荷アイテムの一覧が良い感じです

めっちゃ混んでる!&めっちゃインド!

ブータンっぽい財布やバッグ

ミニ経文旗。22ヌルタム(約35円)

タシ・タゲ(8つの吉祥紋)の飾りもの等

仏像や仏具。こっそりガネーシャ(ヒンドゥー教の神様)も仲間入り

みやげものの他は、生活用品をはじめ何でもござれ。ミリタリーブーツやアーミーナイフ、アーミーカラーの寝袋等も売られていて軍隊感があります。かと思えば、おもちゃ、ぬいぐるみの類も豊富。そして即買い必至なのがIMTRATジャージ上下、ポロシャツ、帽子の3点セット。これらに身を包めば、あなたも俄かにIMTRATの一員に!?ちなみに、ジャージは上下で1,051.5ヌルタム(約1,700円)。

雑貨屋の店内その1。靴、食器、おもちゃ等

雑貨屋の店内その2。電化製品、毛布、洋服等

自分用に買ってしまった、IMTRAT3点セット(ジャージ上下、ポロシャツ、帽子)

ハ・ゾンがIMTRAT本部として使用されているのと同様、ドルジ家(1960年代初頭の家長はブータン初代首相ジグメ・パルデン・ドルジ※2)の邸宅はIMTRAT司令官邸として使用されています。さらに初代首相によって男女共学の近代学校に作り替えられた当時の学校(いわゆる「ハの学校」)の校舎は今、IMTRATの軍事学校で訓練を受けているブータン軍(Royal Bhutan Army: RBA)の寮になっています。ハ県はブータンの近現代史を読み解くうえで非常に重要な地で、IMTRATからもその断片に繋がっていきます。

IMTRATのお店で買い物をしながら、そんな歴史の繋がりに思いを馳せるのもまた一興。いずれまた、改めて歴史的視点からハ県を取り上げてみたいと思います。

ブータン軍の寮。かつての「ハの学校」の校舎

※1 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/03/04/4229/
※2 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2017/06/12/2769/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第52回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/06/15/5442/