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Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

国民総幸福量(GNH)調査2022の結果が発表される―幸福度は前回調査から3.3%上昇―

日本ブータン友好協会会員 須藤 伸

昨年7月に発行された会報(第155号)にて、「幸福度調査から見える新型コロナウイルス感染症の影響」と題して、GNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)調査におけるフィールド調査の概要をお伝えいたしました。その後、この調査の結果報告書が取りまとめられ、今年の5月22日、ブータンの政府系研究機関Centre for Bhutan & GNH Studiesにて、ロテ・ツェリン首相同席の下、調査結果が正式に発表されましたので、結果概要をお伝えいたします。なお、JICAでは、前回調査(2015年)から本調査に協力しており、今回はJICAが協力する二回目の調査です。

GNH調査とは、一般に幸福度とも捉えられる「GNH指標」を測るものとして2000年代後半に開発され、この指標はブータン独自の開発指標として政策立案や予算配分にも活用されてきています。今年は第13次5か年計画の策定年であり、今回の調査はこれに併せて実施されたものです。今回の調査では、2022年4月から7月までの間に、全ブータン国民の中から無作為に選ばれた11,440名(ブータンの人口の約1.5%に相当)を対象に聞き取り調査が行われました。聞き取り調査では、調査員が各対象者の自宅を訪問し、一人当たり1時間から2時間ほどかけて、150問以上の質問に基づくヒアリングが行われました。調査項目はGNHの9領域に基づき、心理的福祉、健康、時間の使い方、教育、文化の多様性、グッド・ガバナンス、コミュニティの活力、生物多様性、生活水準といった従来と同様の調査項目に加え、今年は新型コロナウイルス感染症の影響等についての質問も含まれています。このような質問に対する回答から、GNH指標が測定され、幸福度の経年変化や地域差を測定・分析するとともに、GNHに基づくブータンの開発政策を後押しするために活用されるものです。

今年5月に発表された調査結果報告書「GNH2022」によると、GNH指標は0.781と測定され、2015年の前回調査から3.3%上昇しました。(GNH指標とは、幸福度を0から1までの数値で示すものであり、値が大きいほど幸福度が高いことを示します。)調査結果の主なポイントは次のとおりです。

  • 分野別では、生活水準、教育、コミュニティの活力、心理的福祉、グッド・ガバナンスの項目でGNH指標が上昇。うち生活水準(+18.2%)及び教育(+9.3%)の伸び率が高く、GNH指標を押し上げる要因となった。
  • 一方で、文化の多様性(‐3.2%)、時間の使い方、健康、生物多様性の指標は減少。
  • 地域別では、農村部が5.6%上昇したのに対し、都市部が1.8%減少。しかし、都市部と農村部の幸福度には大きな差があり、農村部(46.4%)に比べて都市部(50.5%)の幸福度が高い。
  • 男女別では、男性(+2.6%)よりも女性(+4.4%)の上昇率が高い。しかし、男性と女性の幸福度には大きな差があり、男性(55.3%)に比べて女性(43.8%)の幸福度が低く、これまでの調査同様、大きな男女間格差が示された。

こうした結果を私の視点から読み解いてみたいと思います。まず、GNH指標の上昇は、新型コロナウイルスによる経済・社会的な影響を受けながらも、高い経済成長を続けるブータンにおいて、主に所得の上昇によって大きく牽引されたものと考えられます。分野別の指標を見ると、住宅環境や世帯所得の値が大きく上昇し、人々の暮らしの点でも近年の経済成長の恩恵を受けているようで、これが調査結果に反映されていることがわかります。

また、幸福感の農村部の上昇に対して、都市部の減少といったGNH指標の地域別の差も注目に値する点かと思います。この背景には、新型コロナウイルス感染症による影響があるのではないかと考えています。都市部では若年層失業率の増加など(28.6%、2022年)、コロナ危機後も経済や社会的な影響・課題が残る一方で、経済的ショックに対する農村地域の強靭性が示されたものと考えています。

さらに、GNH指標の男女間格差(男性が高く、女性が低い)や地域間格差(都市部が高く、農村部が低い)に関する傾向は、今回の調査結果にて若干の改善が見られたものの、前回調査から大きな変化は生じておらず、ブータンの今後の政策を考える上でも、ジェンダー課題への対応や農村地域の振興といった観点に配慮した政策立案・予算配分が必要であると考えます。

なお、GNH調査結果報告書(英文)は、Centre for Bhutan & GNH Studiesのウェブサイトから全文ダウンロード可能です。ご関心のある方はどうぞご覧ください。

ワンデュ・ポダン県リンチェンガン村での聞き取り調査の様子
県ごとのGNH指標:色が濃いほど幸福度が高いことを示す。(出典:GNH2022)
GNH2022調査結果報告書

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第159号、1、7頁より転載。