日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

ガサが取り上げられている映像作品

ガサが取り上げられている映像作品

平山 雄大

2021年4月、パオ・チョニン・ドルジ氏が監督を務めたブータン映画『ブータン 山の教室』(原題Lunana: A Yak in the Classroom)が全国各地の映画館で公開されはじめました。オーストラリアに行くことを夢見る都会の若者である教師ウゲンが、ガサ県ルナナ郡の学校に赴任する物語です。

チャーターしたヘリコプターで村とプナカを行き来する人々の姿も一般的になってきていますが、歩くとガサ(県庁所在地)から1週間前後かかる「辺境」ルナナの村々。映画の撮影地は、そのひとつであるチョゾ村です。そして撮影に使用されたメンレタン小学校(ルナナ郡に3つある小学校のうちのひとつで、クラスPPからクラス3までしかないいわゆる「不完全学校」です)は、映画に出てくるのと同様、生徒10名ほどの非常に小さな学校です。

ガサ県を舞台にした、もしくは取り上げたドキュメンタリーはこれまでたくさん作られてきました。『ブータン 山の教室』公開を機に、そのうちの5つを紹介します。

1. 『秘境ブータン』(第2回 幻の王家の谷へ)(1983年)

本格的な機材を装備してガサに入ったテレビの撮影隊は、故・後藤多聞氏が率いたNHK取材班が最初だと言われています。1982年10月、当時まだプナカ県の一部だった(そして自動車道路の建設も始まっていなかった)ガサに自動車道路の終着から2泊3日かけてたどり着いた取材班は、「幻の遊牧民ラヤップ」の地であるラヤまで足を延ばしました。当時のガサまでの行程や、ヤクと共に生きるラヤの人々の暮らしを鮮やかに記録したこの取材の成果は、1983年1月14日にNHK特集『秘境ブータン』(第2回 幻の王家の谷へ)として全国放送されました。2週に渡って放送されたこのNHK特集を通してブータンを知ったという会員のかたも多いのではないでしょうか。

2. 『氷河を越えて』(2003年)

『秘境ブータン』の放送から20年後、ルナナを主な舞台とするドキュメンタリーが作られました。BBSで働いていたドルジ・ワンチュク氏が監督を務めた『氷河を越えて』(原題School Among Glaciers)という、ルナナ・コミュニティスクール(現ルナナ小学校)(クラス6まである、ルナナで唯一の「完全学校」です)に赴任する教師を追ったものです。このドキュメンタリーは各方面から高く評価され、NHKの第30回「日本賞」番組企画部門で、グランプリとなる放送文化基金賞を受賞しました。

前半は主人公であるナワン先生が学校のあるヘディ村に到着するまでの過程ですが、そこには、県庁所在地に車が乗り入れていない、つまり自動車道路が開通していない状態の最後のガサの姿が記録されています。ナワン先生はラヤ経由でルナナに向かっているため当時のラヤの状況も描かれており、前半だけですでに見どころ満載!標高5,200メートルの峠を越えてたどり着いたルナナの地で、ナワン先生は授業を行うために奮闘します。

3. 『The Road to Lunana』(2007年)

ルナナまでの陸路行程が一番詳しく分かるのは、BBS制作の『The Road to Lunana』で間違いないと思います。民主化直前の2007年5月に、選挙の意義や投票方法をタンザ村まで指導に行く(=電子投票の予行演習を実施しに行く)チームを同行取材したものです。ルナナ郡の各村の位置や規模について、さらに人々の暮らしについて、この作品から読み取れるものは多いです。氷河湖もたくさん出てきます。各村から人が集まっての予行演習の場は圧巻!そして、ルナナのおばちゃんたちのヤク毛帽子がかわいいです。

余談ですが、この作品で脚本・副プロデューサー等を担当しているのは、2018年に日本でも公開された映画『ゲンボとタシの夢見るブータン』(原題The Next Guardian)の共同監督を務めたアルン・バッタライ氏です。

4. 『HAPPINESS ブータン・幸せの国の少年』(2013年)

逆に、ガサ県(ラヤ)から都会に赴く話もあります。『秘境ブータン』から30年後に作られた、フランスとフィンランドによる国際共同合作のドキュメンタリー(風?)作品『HAPPINESS ブータン・幸せの国の少年』(原題Happiness)がそれです。

このときはすでに県庁所在地のガサまで自動車道路が開通し、ラヤまで電気を通すための工事が進行中でした。ドキュメンタリーは、貧しさゆえに少年僧となった8歳のペヤンキが、伯父と一緒に首都ティンプーにテレビを買いに行くところを追ったものです。ティンプーで働いている姉に会う場面や、電気が届き食い入るようにテレビでプロレスを見るラヤの人々の場面等、いくつかの印象的なシーンを通して近代化・情報化の意味を考えさせられます。電気が届く前であっても携帯電話の電波はラヤまで通じていて、そんなところもポイントです。

現在ガサからラヤまでの自動車道路が建設中ですが、それが開通したとき、ラヤの人々の暮らしはどのように変わるのでしょう。

5. 『Bhutan: Change Comes to the Himalayan Happy Kingdom』(2020年)

2020年後半、世界ではブータンに焦点を当てた良質の番組がいくつか放送されました。その中のひとつ、ドイツの国際放送事業体ドイチェ・ヴェレが制作した『Bhutan: Change Comes to the Himalayan Happy Kingdom』というドキュメンタリーに、ラヤが出てきます。

このドキュメンタリーはドローン撮影を駆使していて、映像が今風で非常に美しいです。ブータンの「変わらぬもの、変わりゆくもの」に焦点を当てた内容で、親元を離れティンプーのパジョディンの僧院学校に入学する少年、オーガニックフラワーを栽培する農家コミュニティの女性リーダー、ブムタン県シンカル村に暮らす73歳のおじいちゃん等が紹介されていますが、そのうちの1人が、ラヤで冬虫夏草を収穫する青年とその家族です。ラヤのシーンは全部で8分ほど。丈夫なヤクを育てるために彼らに塩を与えるところは、今も昔も変わりません(前述の『秘境ブータン』にも同様の情景が出てきます)。奥さんが着こなすダウンジャケット、日常生活に浸透するスマホ等は新たな文化と言えそうです。

※この5作品のうち、2.『氷河を越えて』、3.『The Road to Lunana』、5.『Bhutan: Change Comes to the Himalayan Happy Kingdom』(英語版、スペイン語版、アラビア語版があります)は、2021年4月現在、YouTubeで視聴可能です。

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第150号、3-4頁より転載。