日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS
ダガナだがな
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大
ダガナ県。首都を擁するティンプー県の南東に位置する県です。南部地域統括の要として長らくペンロプ(総督)職が置かれていた要衝で、1651年に完成した城塞(ダガ・タシヤンツェ・ゾン)は見応え抜群。
しかし、ダガナ県を訪れた外国人観光客数は、2017年の統計だと年間10人(22万4,115人中)※3、2018年の統計だと年間24人(23万2,880人中)※2という驚愕の少なさ。どちらの年も当然のように全20県中20位で、全体の割合だと0.0000~0.0001%ほど。つまり、ブータンを訪れた外国人観光客の99.9999%はダガナに足を踏み入れずに帰国の途に就くわけです。
外国人観光客。さ、さすがに少なすぎでは……??
問題のひとつはアクセス面でしょう。首都ティンプーからダガナの町(県庁所在地)までは直線距離でたったの50kmほどですが、その直線に自動車道路はありません。実際は思いっきり大回りをして、プナカ県、ワンデュ・ポダン県、チラン県を抜けて行く必要があります。そしてサンコーシュ・チュ(川)を越えてダガナ県に入ってからは入ってからで、今度はクネクネした山道が約4時間半続きます。
外国人観光客。そ、それでも少なすぎるような……??(もっとアクセスの悪い場所も、ブータンにはたくさんあるはずですが……)
壮観な棚田とオレンジ畑、3つの巨石伝説、バードウォッチング、文化的多様性、地元の神々とも関連付けられた年1回のお祭り(ダガ・ツェチュ)……と観光に役立ちそうな要素も実は豊富なダガナ。昨年の夏にチュカで行った「日本人観光客が思わずチュカ県を訪れたくなるような3分間の観光PR映像を作成する」ことをミッションにしたPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)ワークショップ※3を、もしダガナを舞台に開催したらどのようなものができあがるでしょうか。
ちなみに自動車道路ができる以前は、この直線距離50kmの道のりを歩いて山越えしていたとの由。この山越え道はヤクを放牧する牧畜民の生活の舞台で、ティンプー県側は「ダガラ・トレック」というトレッキングのルートにもなっています。
ダガナの町は、ゾンに近いアッパーエリアと近年整備されたロウワーエリアに分かれているダラムサラスタイル。意外と大きくしっかり整備されており、「辺境の田舎」を想像していた私は、初訪問の際に少々面食らいました。
雑貨屋もあり、洋服屋兼かばん屋兼アクセサリー屋兼おもちゃ屋のようなおしゃれショップもあり、いくつかの銀行のATMもあり、ゴミ収集車だって走っています。ホテル・ジュルガン(Hotel Jurugang)、サンゲイ・ホテル(Sangay Hotel)、プラダンズ・ホテル(Pradhan’s Hotel)と、ローカルホテルも3軒あります。
以前はネパールからの移民の入植先のひとつだったダガナ。近年は他県からの入植が積極的に推進されているため、東部地域の文化も流入しより多様性が増しています。ひとつの県の中で標高差が3,000m以上(標高185m~3,800m)もあり、言語や宗教に加えて生活形態・環境も多種多様。「ブータンつれづれ」でたびたび言及がなされる通り、ブータンという国自体が多様性を包含しているわけですが、やはりダガナの一番のキーワードもまた多様性だと言えそうです。
そんなダガナから、これからも目が離せません。
※1 Tourism Council of Bhutan (TCB) (2018) Bhutan Tourism Monitor 2017, Thimphu: TCB, p.23.
※2 TCB (2019) Bhutan Tourism Monitor 2018, Thimphu: TCB, p.23.
※3 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/12/27/5115/
WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第49回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/03/30/5288/