日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

本屋をめぐる冒険(前編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

初めて訪れた国・地域でまず行っておきたい場所のひとつに、本屋を挙げることができます。本や雑誌の内容からその国・地域で何が流行っていて、何が大事にされているのかがおぼろげながら見えてくるし、文化の一端を垣間見ることができるし、単純に楽しいし、ずばり良いこと尽くめです。

しかし困ったことに、ブータンには本屋がほとんどありません。それなりに大きな町なのに本屋が一軒もない!というのは、今も昔もブータンではいたって普通のことです。「そもそも本を読む習慣がない」、「出版業が確立していない」、「大事なのは本よりも経典」、「複雑な言語状況※1が背景にある」…等さまざまな理由づけがなされてきましたが、ここまで本屋が少ない国というのも珍しいのではないでしょうか。

唯一の例外は首都ティンプーの中心地で、特に時計塔(クロック・タワー)広場周辺は本屋密集地帯と言え、本好き/本屋好きにはたまらないエリアとなっています。

【DSB書店】
まず行きたいのは、JOJOビルの中にある「DSB書店」(DSB BOOKS)です。ここは出版業、旅行業、ソーラーパネル販売業等を手がける(株)DSBエンタープライズが経営している本屋で、珍しくウェブサイト※2やリーフレットを使った広報活動を展開しています。1階のカウンター奥がブータン関連本やチベット仏教関連本、手前が小説、参考書、辞書等。2階は児童書の他、おもちゃ、ぬいぐるみ、ギフト用の小物等を扱っています。

ちなみにブータンで流通している本の90%は英語で書かれたもので、その多くは輸入品です。DSB書店は特に国内で発行されたブータン関連本や雑誌の種類が豊富で新刊本も多く取り揃えており(ブータンで発行されている新聞各紙のバックナンバーも豊富!)、旅行者にとっても貴重な存在と言えるでしょう。

DSB書店の店内。全体的にカラフル!

めちゃめちゃ狭い階段を上った先にある2階の売り場。

【ブックワールド】
DSB書店から徒歩1分、時計塔広場のすぐ脇にあるのが「ブックワールド」(BOOKWORLD)です。経営はブータンのIT企業(株)NGNテクノロジーで、神棚にヒンドゥー教のラクシュミー(美や幸運の女神)とガネーシャ(富の神)が祀られています。扱っている本は、ざっくり分けると入って右側が一般書で左側が児童書。中には近年量・質ともに充実してきたブータンの絵本も。DSB書店同様、旅行中にふらっと立ち寄れる小粋なお店です。

中二階部分は「トリンケッツ」(TRINKETS)という、ファンシーショップと言っても良さそうな子ども向けの文房具兼おもちゃ(主にぬいぐるみ)屋さんになっています。この、中二階をファンシーショップにした形態の本屋はインドでよく見かけるような気がしますが、そこらへんの作りにも隣国の影響があるのかもしれません。

ブックワールドの店内。シッキム王国関連の本も取り扱っています。

児童書。Made in Bhutanのかわいい絵本も、ここ数年で一気に種類が増えました。

【メガ】
ブックワールドから左手にまっすぐ進むと、老舗書店「メガ」(MEGAH ENTERPRISE)に突き当たります。ここは特に参考書の品揃えが豊富で、お客さんも学生中心。なぜかハスラット(Bikrama Jit Hasrat)が記した歴史教科書『ブータンの歴史』(History of Bhutan: Land of the Peaceful Dragon)の在庫をたくさん抱えており、歴史好きの私はそれだけで愛着を持っています。同書は1980年にブータン政府の教育局が発行したもので、プレミアがついてもおかしくないお宝本のひとつです。

奥のほうは物置き…かと思いきや仏具売り場になっており、仏像、仏画、鐃鈸等が細々と売られています。2018年3月上旬に訪れた際はちょうど店内改装作業中でした。生まれ変わった(?)メガに行くのが今から楽しみです。

そこはかとなく老舗感が漂うメガの店先。

改装作業中でした。

奥の仏具売り場。右の棚に山積みされているのがハスラットの『ブータンの歴史』です。

(ヘタウマなペンキの塗りかたに)情緒が溢れる、ツートンカラーの書棚。

【ジャンクション】
メガの隣りには、おしゃれ異空間「ジャンクション」(JUNCTION)があります。ここは本屋ですが、厳選された本とともにブータンの若手アーティストによるTシャツやマグカップ、さらにキャンドルやコスメといった小物が並べられており、セレクトショップ的な様相を呈しています。置いてあるインテリアもセンスあり!

オーナーは野良犬の保護活動をしており、店内には(店外にも)ワンちゃんがたくさんいます。イスの上で丸くなっていたり、カウンターの中で寝そべっていたり、入口脇の犬小屋でくつろいでいたり、彼らもこの微笑ましい空間の演出に一役買っている様子。「接合点・交差点・合流点」を意味する店名の通り、ジャンクションは若手アーティストの交流の場にもなっており、これまたしゃれた作りになっている中二階のサロンも積極的に活用されています。

ジャンクション。店構えもなんだかスタイリッシュ。

おしゃれ黒棚に並ぶHARUKI MURAKAMI。

売っているものもインテリアも凝っています。

ジャンクションの店内。いつもワンちゃんがくつろいでいます。

中二階にはサロンも。

ティンプーの本屋巡りはまだ終わりません。後編に続きます。

※1 参考:助教平山のブータンつれづれ(第2回)「国語が苦手なお国事情」 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2016/12/27/2342/
※2 DSB書店ウェブサイト http://www.bhutanbooks.com/books

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第17回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/05/10/3418/