日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

国境の町のこと―プンツォリン編―

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

インドに向かって開かれたブータンの南の入口のひとつに、プンツォリンという町があります。1962年にブータン初の自動車道路としてプンツォリン=ティンプー(首都)を結ぶ国道が開通して以降「物流の拠点」として発展してきた町で、1983年にパロ国際空港が開港するまで旅行者の出入国は原則ここでのみ行われていました。国境ゲートの向こう側にはインドの町ジャイガオンが広がっており、両国の人々は双方を自由に往来しています。

プンツォリンの国境ゲート(2004年3月撮影)

ライトアップ!(2017年8月撮影)

アジアハイウェイ(AH)の標識

私が初めて訪れたブータンの町は、このプンツォリンです。当時まだ大学生でいわゆるバックパッカーだった私は、宿泊・食事・移動をパッケージ化し、1泊最低200ドルを旅行者に課す公定料金制度を導入している「貧乏旅行者お断りの国」ブータンの存在を知り、「何か風変わりだ!怪しい!行ってみたい!(ただしお金はない!)」とかねてより思い巡らせていました。そのときはインドから国境を越えプンツォリンのみを訪れましたが、そこは喧騒と活気が渦巻くインドの町とは正反対の、長閑でどこか心落ち着く不思議な場所でした。

その後ブータンを頻繁に訪れるようになり、同国の他の場所と比較するとプンツォリンは「めちゃめちゃインドっぽい」町だということに気がつきましたが、初めて訪れたときは、例えばインドのバラナシからネパールのポカラにたどり着いたときのような心の安らぎを確かに覚えたものです。

ブータン側から撮影した国境(壁の向こうがインド側)

小型車両用にできた2つ目の国境ゲート(インド側から撮影)

王立ブータン大学科学技術カレッジ

国境には第4代国王の戴冠式(1974年6月)に合わせて整備されたという重厚なゲートがあり、それが町のシンボルになっています。通行車両の増加に伴い2017年6月には第2ゲートも開かれました。国境はコンクリートの壁で仕切られていますが、中心から外れたところは、かろうじて溝がある、何もない、DANTAK(インド国境道路管理局)の事務所が国境線をまたいで建てられている…等とさまざま。

プンツォリンの町中にはインド料理屋さんやスーパーマーケットがたくさんあります。国内唯一のワニ園や歩道橋もあります。郊外には王立ブータン大学科学技術カレッジ(College of Science and Technology, Royal University of Bhutan)があり、521人(男子317人、女子204人)の学生が在籍しています※1。2017年度のWAVOC提供GEC設置科目「ブータンから学ぶ国家開発と異文化理解」では、実習中にたった1泊という強行軍でプンツォリンを訪問し、ブータンの多様性・インドとの関係性を体感しました。

プンツォリンの町を散策する早稲田の学生

インド料理に舌鼓を打つ早稲田の学生

ブータン側(プンツォリン)から一歩インド側(ジャイガオン)に足を踏み入れると、サイクル・リクシャーやオート・リクシャーで道は賑わい(※ブータンにはそういう乗り物も商売もありません)、道端の屋台が食欲をそそり(※ブータンには屋台文化がほとんどありません)、物乞いの子どもが足に抱きついてきて(※ブータンには物乞いがほとんどいません)…とかなりの異文化模様。越境して買い出しに来ているブータン人もたくさんいます。さらに、インド側のほうが家賃が安いので、こちらにアパートを借りて毎日国境を越えてプンツォリンに出勤している…というブータン人もたくさんいます。

ジャイガオンには、西ベンガル州のカリンポンやダージリン、シッキム州のガントクやジョレタン、メガラヤ州のシロン、ネパールとの国境の町カカルビッタ、さらにインド=ブータンの別の国境の町ゲレフやサムドゥプ・ジョンカル等へのバスが発着しており、ついつい乗りたくなってしまうので要注意。

インド旅行とセットにして、プンツォリンから出入国するブータン旅行もお勧めです。

ジャイガオンのバスチケット売り場

ジャイガオンの朝の風景

※1 Policy and Planning Division, Ministry of Education (MoE) (2017) Annual Education Statistics 2017, Thimphu: MoE, p.23.

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第25回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/12/07/3933/