日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

お茶の水女子大学のブータン現地調査(2023年)

日本ブータン友好協会理事 平山 雄大

お茶の水女子大学に、「国際共生社会論実習」(学部生向け)・「国際共生社会論フィールド実習」(博士前期課程の大学院生向け)という、学部学年関係なく、興味関心のある学生が履修申請をすることができる海外実習科目があります。①事前学習:資料の購読・発表、外部有識者による講演等を通して訪問国の歴史・政治経済・社会等に関する理解を深めるとともに、履修生各自が興味関心・問題意識に則した研究課題を設定し現地調査の計画を策定する、②現地調査:各自の研究課題に関連する諸機関の訪問、都市部・農村部に暮らす人々や関係者へのインタビュー等を行うと同時に、その国に根づく文化・価値観・生活様式に触れ、異文化への、もしくは開発途上国への自分なりの対峙の仕方を模索する(国際共生社会実現へのヒントを見つける)、③事後学習:現地調査の内容を振り返り、研究課題に分析・考察を加え報告書を作成する、というかたちの1年を通したプログラムです。コロナ禍の中で2年間休講していましたが、2022年度から再開し、そのタイミングで私が担当することになったため、調査地のひとつがブータンとなりました。

今年度は、9月11日から20日にかけてブータン現地調査を実施しました(新しい観光政策の導入やDrukairの学割制度撤廃、物価の上昇等でコロナ前よりも渡航費がかなり高額になってしまいましたが、お茶の水女子大学が学生の渡航費の半額を補助する決定をしてくれ、何とか実施にこぎつけました)。ブータンチームの学生6名はそれぞれ「ブータンから学ぶエコツーリズム形成に必要な観点」、「ブータンの人々が抱く理想はGNH政策によって達成できるか」、「グローバル化による農業の変化に伴う文化・生活の変化」、「ブータンにおける開発はどのような“豊かさ”をもたらしたのか」、「ジェンダーギャップに対する法・政策の実態と市民の認識(変化)」、「ブータンにおける高等教育の“出口”」を研究課題に設定し、各自でインタビュー項目を作成し、事前学習にて検討しアポを取った訪問先を訪れました。

宿泊したのはティンプー、ポブジカ、パロの3ヵ所で、主な訪問先はティンプー:JICAブータン事務所、ブータン日本語学校、王立自然保護協会(PSPN)、ブータン女性起業家協会(BAOWE)、ポブジカ:RSPNオグロヅルエデュケーションセンター、ガンテ・ロッジ、男性が家を継いでいる農家、パロ:西岡ミュージアム(農業機械公社/農業機械化センター)、王立ブータン大学パロ教育カレッジ、女性が家を継いでいる農家です。合間に市内散策を繰り返し、市場やレストラン等で出会った方々や道行く人にインタビューをしたり、日本語学校や王立ブータン大学の学生と交流したり、ホームステイ先の農家で農作業をさせていただいたりしながら、学生は各々の研究を遂行していきました。ティンプーでは、友好協会会員の青木薫さん、須藤伸さん、山田智之さんにも大変お世話になりました。

以下に、ブータン滞在中毎夜行っていた振り返り、及び帰国後の事後学習の中で出た学生の感想の一部を紹介します。

  • ブータン人の愛国心やアイデンティティ、国王への忠誠心、仏教への熱心な信仰心について学ぶことができた。
  • ブータンは「幸せな国」と呼ばれることがあるが、実際に訪問して幸せとは何かをもう一度考え直す必要があるように感じた。
  • ブータンは確かに世界的に見て経済的に豊かな国ではないが、男女平等の価値観や平和的思考、ホスピタリティについては他国と比べても秀でているようにも感じた。
  • 生活が便利・豊かになることは人々にとっては重要なことであり、その中で、常に変化する文化というものが、新しいフェーズに入っていくのではないかと考えた。
  • 調査に参加する前まではブータンに「秘境」等の印象を抱いていたが、訪れてみるとその近代化の進展に驚かされた。特に都市ではほとんどの人がスマートフォンを持っていて、それどころかポブジカでのホームステイでホストマザーにインタビューを行っているときに、ホストマザーが彼女の孫をスマートフォンでYouTubeを見せて大人しくさせていたのには衝撃を受けた。
  • 研究を進める中で、現地の人々は悪影響も踏まえたうえで、開発による便利な生活を望んでいることが分かった。
  • ブータンで発展とは直線的なものではなく、多面的なものであることを学んだ。
  • 若者の国に対する信頼感、故郷への熱愛と依存が今回の調査で一番印象的だった。
  • 慣れない、知らない世界に挑戦していく勇気を、ブータン海外調査を通して得た。

中には滞在中に体調を崩す学生もいましたが、皆、積極的な姿勢で現地調査に臨み、それぞれ深みのある調査報告書を書き上げました。11月11日(土)13:00-14:00にお茶の水女子大学の学園祭「第74回徽音祭(きいんさい)」にて対面で、18日(土)14:00-15:00に「2023年度第10回ブータン連続セミナー」(第180回ブータン勉強会)にてオンラインで、それぞれの学びを報告します。よろしければぜひご参加ください。

※学園祭の入場、セミナーの参加ともに事前申込が必要です。詳細は以下のウェブサイトをご確認ください。
https://kiin-fes.com/
http://www.bhutanstudies.net/21685/

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第160号、2-3頁より転載。