日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

IMTRATのお店をめぐる冒険(前編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

もう60年近く、ブータンにはインド軍が駐留しています。インドにとって中国との間に位置するブータンは国境防衛の最前線のひとつで、1958年9月にネルー首相(当時)が訪ブした際※1の協議事項のひとつがこの軍隊駐留に関するものでした。結果、インドの全面協力のもとでブータンの国家開発(5ヵ年計画)が開始された1960年代初頭から、インド軍はハ県を拠点に活動を続けています。

その正式名称はインド軍事訓練チーム(Indian Military Training Team)。通称IMTRAT(イントラット)。主要任務はロイヤル・ボディガード(Royal Bodyguard: RBG)を含むブータン軍(Royal Bhutan Army: RBA)の訓練で、ワンチュク・ロ・ゾンことハ・ゾンに本部が置かれています。ゾンの周囲にはIMTRATの軍事学校、グラウンド、病院、兵舎、軍関係者の子弟のためのインド人学校、ゴルフ場等があり、若干異質な雰囲気。ちなみに毎年秋には、グラウンドでIMTRAT主催のお祭り(メラ)が開かれています。※2

ハ・ゾンと、周囲を取り巻くIMTRATの施設(緑色の屋根が目印)

IMTRATの軍事学校。ブータン軍はここで訓練を受けます

IMTRATのゴルフ場。かつての(ブータン人の)アーチェリー場

これまでゾンの入口には大きくIMTRATのマークが掲示され、「このゾン、インドに接収されています」感が強く出ていました。私は詳細を追い切れていませんが、最近はその掲示が外され、少々派手(昔風?)だったゾンの塗装もシックな感じ(今風?)に。ウツェ(本堂)以外のゾンの内部はIMTRATの本部として、事務所、図書館、印刷局、郵便局等に使用されています。

以前のハ・ゾン入口(2015年9月撮影)

現在のハ・ゾン入口(2019年8月撮影)。だいぶ落ち着いた雰囲気に

ハ・ゾン内部。軍関係者の出入りが激しいです

ウツェの最上階(屋根裏)まで上り周囲を見渡してみると、ゾン敷地内にある緑色の屋根の建物が目につきます。これはIMTRATが経営するお店で、食料品店、軽食屋、雑貨屋、酒屋、ATM、さらに仕立屋が入る複合施設です。基本的にIMTRATの軍関係者やその家族が利用するためのものですが、酒屋以外は一般人も(ブータン人も外国人旅行者も)利用可。こんな面白そうな施設、立ち寄らない理由がありません。

施設内は中央にマニ車があること、「LONG LIVE INDO-BHUTAN FRIENDSHIP」のキャッチフレーズのもと(インド国旗と)ブータン国旗が掲示されていることを除いてほぼ完全にインド風味。軍の皆さんの憩いの場となっています。食料品店は野菜や果物はもちろん新鮮な牛乳、バター、チーズ等を取り揃え、人気アイテムは各種アイスキャンディーとのこと。皆さんマイバック持参で買い物に来ていました。

ゾン最上階から望むIMTRATのお店(緑色の屋根の建物)

軍の皆さんの憩いの場でもあります

食料品店が開くのを待つおばちゃんたち(マイバック持参)

「ドラゴン・カフェ」という名前がつけられた軽食屋は、インドの地方空港や鉄道駅にあるお店のよう。お菓子(ドーナツ、マフィン等)、各種飲物(チャイ、コーヒー等)、洋食(ハンバーガー、ピザ等)、インド料理(チョーレー・バトゥーレー、ドーサー等)、さらに各種ケーキを取り揃えています。何と裏メニュー(?)でアイスクリームもありました。ブータン各地のIMTRAT関係施設やインド人が多く働く水力発電所の施設等にはこのような純インド喫茶が併設されていますが、手ごろなお値段で美味しい軽食をいただくことができる穴場です。

それにしてもこの「ドラゴン・カフェ」は、ケーキの種類が豊富です。IMTRATの軍関係者やその家族の誕生日パーティのケーキ注文を一手に担っているとみました。

ドラゴン・カフェ店内。賑わっております

ドラゴン・カフェのメニュー一覧

ショーケース。左下のケーキ、めちゃめちゃ派手!

メニューの中にはパニプリ(Pani Puri)※3も!パニプリはパニ(水)+プリ(外側の揚げた殻)+具(じゃがいも、ひよこ豆等)からなるインドの定番おやつで、都内のインド食材店やアジア食材店でもキットが売られていたりします※4。ブータンでも市民権を得ていて、このような純インド喫茶に限らずいろいろなところで味わえます。

一口サイズのボール状プリの殻を割って中に具を入れたものに、辛い&酸っぱいパニ(通称マサラ・ウォーター)を注いでパクリ。これまでブータン各地でパニプリを食べてきましたが、特にお勧めはパロ・ゾンの橋でおばちゃんが売っているものでしょうか。他よりも丸め(というか真ん丸!)のプリと辛めのパニが病みつき必至です。

ドラゴン・カフェのパニプリ

パロ・ゾンの橋で売られているパニプリ。おばちゃん、マサラ・ウォーターぶっかけ中

話が逸れました。IMTRATのお店探訪は後編に続きます。

※1 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/02/28/3171/
※2 http://blog.livedoor.jp/bhutan_diary/archives/4846107.html
※3 https://recipe.tirakita.com/recipe/763/パニプリ/
※4 https://search.rakuten.co.jp/search/mall/パニプリ/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第51回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/05/22/5408/