日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

ビリビリ1万1,000ボルト!

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

10種類以上あるブータン国産ビールの中で一番の人気を誇る“スーパーストロングビール”「ドゥク11000」(DRUK 11000)(※読みかたは「ドゥク・イレブンサウザント」)。アルコール度数8%。

私はふと気になってしまいました。「11000」って…?雷龍の国ブータンのビールなので「ドゥク」(ゾンカで「雷龍」の意)は良いとして、なぜ数字なのか?そしてどうして1,000でも5,000でも1万でもなく、ちょいと中途半端な1万1,000なのか?製造元のブータン・ブルワリー(Bhutan Brewery)に問い合わせればよいのですが、それをしていない私は仮説を2つ提示したいと思います。

ドゥク11000。その名前の由来は?

【仮説その1】インドの影響受けまくり

まず私が知っているのは、インドのストロング系ビール―日本では、2018年4月発売のアルコール度数7%「アサヒ グランマイルド」がこの類です―は、(質よりも)名前の数字の多さで勝負したがり…だということ。

1886年創業でコルカタに本部を置いていたショーワラス社(Shaw Wallace & Company Limited)が発売した「ヘイワーズ2000」(HAYWARDS 2000)。そこから派生し、インドのストロング系ビールの草分け的存在となったアルコール度数8%の“スーパーストロングビール”「ヘイワーズ5000」(HAYWARDS 5000)。1983年に発売されたこのヘイワーズ5000を皮切りに、「5,000超え」の銘柄がインド各地で生まれています。一例は以下の通りで、確認できる限り最大で50,000まで行っちゃってます。

  • “スーパーストロングビール”「ボリオン6000」(VORION 6000)
  • “ウルトラスーパーストロングビール”「ヒーマン9000」(HE-MAN 9000)
  • “ストロングビール”「アイスバーグ9000」(Iceberg’s 9000)
  • “スーパーストロングビール”「メーキンズ10000」(MEAKINS 10000)
  • “スーパープレミアムビール”「パワー10000」(POWER 10000)
  • “スーパーストロングビール”「リラのカンガルー10000」(Lila’s KANGARO 10000)
  • “スーパービール”「オールドモンク10000」(Old Monk 10000)
  • “スーパーストロングビール”「カノン10000」(CANNON 10000)
  • “スーパーストロングビール”「コックス10000」(COX 10000)
  • “スーパーストロングビール”「10000ボルト」(10000 Volts)
  • “プレミアムストロングビール”「デアデビル10000」(Dare Devil 10000)
  • “スーパーストロングビール”「SNJ 10000」(SNJ 10000)
  • “ウルトラストロングビール”「ビクトリア・メガ10000」(VICTORIA MEGA 10000)
  • “プレミアムストロングビール”「ゴッドファザー10000プラス」(GODFATHER 10000+)
  • “スーパーストロングビール”「マックス11000」(MAX 11000)
  • “スーパーストロングプレミアムビール”「ボリオン12000」(VORION 12000)
  • “スーパーストロングビール”「SNJ 20000」(SNJ 20000)
  • “プレミアムストロングビール”「スーペリア50000」(SUPERIOR 50000)

名前の数字で勝負!?インドのストロング系ビール。

ドゥク11000や前回のコラムで紹介した「サンダー15000」(THUNDER 15000)は、このインドの銘柄合戦の流れを組むストロング系ビールと言えるのでは?インドに「○○○○10000」というビールがあるので、それに対抗し少し上乗せし「DRUK11000」としたのかも…という話を、ブータン人の知り合いからも聞いたことがあります。

【仮説その2】感電レベルでビリビリくるぜ

他に何か可能性はないのか。悩んだ私は山へ分け入りました。そうしたら気づいてしまったのです、ブータン中に張り巡らされている送電線(特別高圧ケーブル)の電圧が、ぴったり1万1,000ボルトであるという事実に。

送電線の周囲に、髑髏マークとともに英語+ゾンカ+ヒンディーで(中には英語+ゾンカのみ/英語+ヒンディーのみのものも)“危険・11000V”と書かれた標識があります。確かに「イレブンサウザント」ボルト。これはつまり、神谷バーのデンキブラン・電氣ブラン的発想で、「雷龍」⇒「落雷」⇒「電気」⇒「1万1,000ボルト」⇒「1万1,000ボトル」⇒「感電レベルの美味しさ」⇒「一杯飲んだらビリビリくるぜ」⇒「DRUK 11000」ということなのでは?

ブータンの山に行くとよく見られる、送電線の“触るな危険”標識。

山々と送電線とヤクの群れ。

ちなみにこの標識、髑髏マークに結構種類があり、さらには手書きのものも散見されひとつひとつ微妙に表情が違う…という微笑ましさ。せっかくなのでいくつかご紹介します。

普通ドクロ。

仮面系ドクロ。表情の硬さがポイント。

隈取(くまどり)入っちゃってます系ドクロ。ついでに歯がリアル。

困り顔系ドクロ。眉毛(!?)の下がり具合がナイス。イチオシ!

困り顔系ドクロ別バージョン。1枚1枚手書きなので、微妙に表情が違います。

余談ですが、インドの送電線の電圧も1万1,000ボルトです。ネットで検索してみると、インドにも味のある“触るな危険”標識がたくさんあり、髑髏マークの種類もより豊富に取り揃えられている様子。さらに標識自体がデザイン化されて、缶バッジ、スマホケース、Tシャツ、パーカー等に印刷され売られている様子(笑)。

インドの“触るな危険”Tシャツ。ネット販売しています。※1

ビールの銘柄への疑問を発端に、インドとブータンのそこはかとない繋がりに思いを馳せつつ…。今度ブータン・ブルワリーに正解を聞きに行ってこようと思います。

※1 https://rdbl.co/2Xx1pku

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第31回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2019/03/11/4230/