日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

お茶の水女子大学の海外実習と最近のブータン

平山 雄大
(お茶の水女子大学グローバル協力センター講師)

2023年2月7日から16日まで、お茶の水女子大学の海外実習科目の引率でブータンに行ってきました。科目名は「国際共生社会論実習」・「国際共生社会論フィールド実習」というもので、履修した学生7名がそれぞれの興味関心・問題意識をもとに設定した研究課題(「ごみの不法投棄と国民の衛生意識」、「伝統芸術における性別分業とジェンダーアイデンティティ」、「言語とナショナルアイデンティティ」、「交通網が食に及ぼす影響」、「LGBTQ+への寛容度」等)を現地で深めるという内容です。

新しい観光政策の導入やドゥルックエアーの学割制度撤廃、物価の上昇等でコロナ前よりも渡航費が高額(約2倍!)になってしまったため、大学からいかに助成金を引き出し学生の金銭的負担を減らすか……が、担当教員である私の重要なミッションでした。本当に学生を連れてブータンに行けるのか不安な中で事前学習や準備を進めていましたが、最終的には関係各所の協力のもと何とか実施にこぎつけ、そして無事に帰国することができ、今ほっとしています。

訪れたのはティンプー、プナカ、プンツォリン、パロの4ヵ所です。主な訪問先はティンプー:JICAブータン事務所、ゾンカ開発委員会、ティンプー市役所、伝統技芸院、ブータン日本語学校、キリスト教の教会、プナカ:プナカ・ゾン、プンツォリン:ファブラボCST(王立ブータン大学科学技術カレッジ)、シク教の寺院、パロ:西岡ミュージアム(農業機械公社/農業機械化センター)、王立ブータン大学パロ教育カレッジ、タクツァン僧院、国立博物館。合間に市内散策を繰り返し、道行く人にインタビューをしたりアンケートに答えてもらったり、雑貨屋やスーパーマーケットで市場調査をしたりしながら、学生は各々の研究課題を遂行していきました。皆、積極的な姿勢で実習に臨んでくれ、それぞれ味のあるレポート(調査報告書)を書き上げました。4月か5月には、お茶の水女子大学グローバル協力センターと日本ブータン研究所が共催する「2023年度ブータン連続セミナー」内で、報告会を開催したいと考えています。

今回、私にとってはちょうど3年ぶりのブータン訪問でした。新しい建物やお店、インド=ブータン陸路出入国の警備の厳格化、道行くデスップ(オレンジ色のユニフォームを着た組織的なボランティア自警団)の多さ、電子マネー決済の一般化……等、この3年での変化を随所に感じましたが、一番の衝撃は、タクツァン僧院に向かう途中にあるカフェテリアの建物が完全に新しくなっていたことです。事前に把握していなかったこともあり、これには本当に驚きました。カフェテリア内ではシフォンケーキやエクレアも売られていて、コーヒーをはじめとした飲み物の種類も豊富で(ビールやブランデーもありました)、何だかお洒落な喫茶店の様相!ただし、そもそも訪れる観光客が少ないためか、繁盛している感じには見えませんでした。

パロの空港は、オーストラリアに向かう人とそのお見送りの皆さんで連日大賑わい。我々がバンコクに戻る際のドゥルックエアーもほぼ満席でした。今年1月にブータン政府が発表した報告によると、オーストラリア在住のブータン人は「1万911人」とのことですが、実際はその何倍もいるはずです。歯止めの利かない人材流出に、勝手ながらブータンの行く末を案じてしまいました。

※ヤクランド『ヤクランド通信』第113号、2-5頁より転載。