日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

海士とブータンと私(後編)

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

高校だけではなく海士は町全体としてもブータンに興味関心・親近感を持ってくださっており、2016年には海士で起業されたかた、役場や町の代表の方々、また教育関係の方々もそれぞれ別の時期にブータンを訪れ、海士史上初(?)のブータンブームの様相を見せました。以降も一般社団法人地域・教育魅力化プラットフォームが代表機関となり実施している日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)※1『「学校を核とした地域創生」海外展開モデル事業~ブータン王国での学校魅力化プロジェクト~』の現地活動等を含め毎年10人近くが海士からブータンを訪問しており、「何ならハワイに行ったことがある人数よりそろそろ多くなってきた」※2との由。

2016年9月、ブータンを訪れた教育関係の皆さん。

2016年9月、首都の私立小学校の生徒から話を聞く悠さん。

2018年6月、教育省にてプレゼンをするEDU-Portチームの皆さん。

加えて2016年以降、2年間パロで働かれていた元JICA青年海外協力隊のかたが海士に移住され、最初に悠さんとブータンを訪問した際に親しくなったウゲンさん一家の息子さんと娘さんがそれぞれ島前高校と海士町立海士中学校に短期留学し、さらにその後娘さんは島前高校に進学。約3ヵ月に1回のペースで開催しているブータン勉強会@海士はすでに8回を数え、探究プログラムでブータンを訪れた高校生による関連イベント等も通して、ブータンは確実に身近な存在になってきました。

2016年6月、第53回ブータン勉強会@海士。

2018年6月、第89回ブータン勉強会@海士。

港にあるキンニャモニャセンターで開かれた海士町×ブータン展。

海士からブータンを訪れる人以上に多いのが、ブータンから海士に研修に来る人です。2016年10月、モティタン高等学校のジグメ校長とガイドのドルジさんが「第12回島会議「島の教育会議」」※3に合わせて訪れ、彼らは記念すべき「海士に足を踏み入れた初のブータン人」となりましたが、以降、公共事業省や内務文化省の次官らの視察(2017年5月)、「全国総合開発計画2030」の策定に係る行政官らの研修(同9月)、地方行政に関する青年研修(同11月)とJICAを通した視察・研修が続き、2017年には何とびっくり合計40名近くのブータン人が海士を訪れました。

今年も11月に青年研修が行われます。多くの国と同様に都市への人口の一極集中や農村の過疎化が大きな問題として浮上しているブータンにおいて、地域創生や地域活性化という観点は今後ますます重要になってくるはず。参加青年の皆さんが海士から何を学び、そして何をブータンに活かすことができるか、その成果に期待大!です。

「海士に足を踏み入れた初のブータン人」ことジグメ校長とドルジさん。中央は山内町長(当時)。

視察で海士を訪れた次官らが、ブータン訪問中の高校生を昼食に招待してくださいました。

早稲田では2017年4月に、「海士ブータンプロジェクト」(通称:あまたん)※4が始まりました。あまたんは、海士における就労体験を通して課題や施策を学び、そこからの学びをもとにブータンの地方問題に一石を投じることを目指す早稲田ボランティアプロジェクト(ワボプロ)です。

これまで週1回のミーティング(兼海士や地域創生に関する勉強会)や月1~2回のブータン勉強会を通して知識を深めつつ、毎年9月に海士の各所(岩ガキ生産現場、CAS凍結センター、マリンポートホテル海士等)で就労体験をさせていただくと同時に2018年2~3月と8月にブータンの地域間格差の現状や地方を巡る問題の視察を行い、自分たちに何ができるかを考え続けてきました。来年2月にはブータンを舞台にした地域密着・体験交流型スタディツアーを実施する予定で、今はその準備を頑張っているところです。

岩ガキ生産現場での就労体験。

あまたんの2018年度ブータン渡航。インド経由で東部を訪問しました。

これまでブータンに30回弱、海士に15回弱お邪魔させていただく中で、訪れるたびに「おかえりなさい」と声をかけてくださるかたが増え、新たな繋がりが生まれ、私にとっては海士もブータンもかけがえのない第二の故郷のようになっています。すべての出会いに感謝しつつ、どこか似ているこの2つの場所に、引き続き関わり続けていきたいと思っています。

※1 https://www.eduport.mext.go.jp/html/programs/pilot.html
※2 角真理子(2018)「挑戦し続ける海士町と幸せであろうとするブータン」(三浦彩由香(編集)/平山雄大(監修)『早稲田ボランティアプロジェクト「海士ブータンプロジェクト」2017年度ブータン渡航報告書』WAVOC)36頁。
※3 http://oki-ama.org/news/4397.html
※4 https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2017/03/27/2560/

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第22回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2018/11/12/3866/