日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

おしゃれイズムinおしゃれタウン

早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター講師 平山雄大

「ブータン屈指のおしゃれタウンと言えば!?」

これは意見が分かれるところではありますが、中にはチラン県のダンプ(Damphu)という町を挙げる人もいます。

チラン県は南部に位置するブータン最小の県で、中心地ダンプまでは首都ティンプーから車で片道6~7時間ほど。20世紀初頭よりネパールから移民が多く入った地域で、町の雰囲気は和洋折衷ならぬ不尼(ブタ・ネパ)折衷。ヒンドゥー教徒が多く、『地球の歩き方』では「ブータンのなかにインドのダージリンが引っ越してきたようなモダンな町」※1と紹介されています。その、いわゆる「普通のブータン」とは少々異なる雰囲気、私も大好きです。

「おしゃれタウン」ことダンプの町

おしゃれ人工芝のフットボールコートから、おしゃれタウンを望む

チラン県の名産と言えばピクルス。壮観です

ブータン各地にあるゾン(かつての城塞)は現在では県庁兼僧院として使われているものが多いですが、もともと「ブータン人」があまり住んでおらずゾンがなかったチラン県に近年新設されたゾンは、役所(県庁)としての機能のみを有しています。中央にそびえるウツェ(本堂)はカンファレンス・ホールになっています。斬新!

新設されたゾンでは、毎年3月頃にツェチュ(お祭り)も開かれるようになりました。練習には王立舞踊団(Royal Academy of Performing Arts: RAPA)から舞踊の先生や楽器の先生が参加しみっちり指導します。そして、チラン・ツェチュでは仏教徒もヒンドゥー教徒も一緒になって踊ります。これまた斬新!

おしゃれタウンの外れにあるおしゃれゾン

おしゃれゾンをバックにお祭りの練習

ふざけ合いつつ、練習は続きます(笑)

ダンプの街並みの異国情緒っぷりのひとつは、建物の出っ張った窓枠(真横から見ると逆三角形)に見出せるようです。壁の色はクリーム色だったり、ピンクだったり、赤かったり。2階のバルコニーの柵もかわいらしく、お店のシャッターが老朽化のためかどこも完全に開ききらない(!)ところも微笑ましいです。

町中に「ザ・チョイス」という、なかなかおしゃれな名前のホテルがあります。これはもう、チョイスしないという選択肢がありませんね。他にも「シェルパ商店」や「ピザ・ギャラクシー」等、ネーミングセンス抜群のお店がそこかしこにあるのもダンプの特徴と言えましょう。

ダンプの街並み。この窓枠の出っ張りがダンプ(というか南部)スタイル

ザ・チョイス。おしゃれ窓枠と真っ赤な壁が目を引きます

のどかなおしゃれタウン

このおしゃれタウンの中でも一番のおしゃれハウスは、「ブータン・ストア」(インド産のお米を売っている)と「ラクシュミー・スイーツ」(インド激甘スイーツを豊富に取り揃えている)が1階に入っているド派手な建物で間違いありません。屋根にはタシ・タゲ(8つの吉祥紋)、壁にはガルーダや虎が描かれ全体はピンク基調。さらには造花で作られた軒先の「WELCOME」の文字がアツすぎます。

おしゃれタウンの中でも一番のおしゃれハウス。ド派手です

ブータン・ストア。内実はほぼインドの米屋という謎

加えて、ダンプは標識もおしゃれです。チラン県の道路局(Department of Roads: DoR)は、道路脇に「少しの間休んで、サンコシュの橋/町とダガナへ続くメンデリンロードのパノラマビューでリフレッシュされたし」のような素敵なおせっかいを大々的に表示しちゃうことでお馴染みですが、ダンプの町中の分かれ道には、この道路局の頑張りが前面に出たおしゃれ標識が立っています。

英語とゾンカ語を併記し、各県を表す絵を描いて「雲」な感じに切り取ったスタイルのこの標識。なかなかどうして必見です。

道路局による素敵なおせっかい標識

ダンプのおしゃれ標識。「ワンデュ・ポダン県まで103km/サルパン県まで60km」

ちなみに、ダンプ郊外には「ダンプ・リゾート」※2という設備が整ったホテルがオープンしています。全17室。外国人観光客もここなら文句ないでしょう。

チラン県を訪れる外国人観光客数は、2017年の統計だと年間27人(22万4,115人中)※3、2018年の統計だと年間68人(23万2,880人中)※4で、どちらの年も全20県中19位、全体の割合だと0.0001~0.0003%ほどという衝撃的な少なさですが、「おしゃれタウンを見に、皆さんぜひ!」と思ったりしております。

おしゃれ公園

夕暮れどきのダンプも素敵です

ピザ・ギャラクシーの看板。「(確実に恋しくなる場所)」。このセンスがさすがです

※1 『地球の歩き方』編集室編(高橋洋、平山雄大編集執筆)(2018)『地球の歩き方D31 ブータン(2018~2019年版)』ダイヤモンド社、160頁。
※2 http://www.hotel.bt/hotels-in-tsirang/damphu-resort/
※3 Tourism Council of Bhutan (TCB) (2018) Bhutan Tourism Monitor 2017, Thimphu: TCB, p.23.
※4 TCB (2019) Bhutan Tourism Monitor 2018, Thimphu: TCB, p.23.

WAVOCブータンコラム「平山雄大のブータンつれづれ(第47回)」より転載。
https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2020/03/04/5264/