日本におけるブータン研究の基盤形成を目指して
Japan Institute for Bhutan Studies: JIBS

NEW!お茶の水女子大学のブータン現地調査(2024年)

日本ブータン友好協会理事 平山 雄大

今年もお茶の水女子大学の海外実習科目「国際共生社会論実習」(①事前学習、②現地調査、③事後学習からなる1年を通したプログラム)の現地調査で、8月19日から28日まで、履修生5名とともにブータンを訪問しました。履修生はそれぞれの興味関心をもとに自身の研究課題を設定し、インタビュー項目等を準備したうえで各研究内容にしたがって決めた訪問先を訪れました。

滞在したのはティンプー、ハ、パロの3ヵ所で、主な訪問先はティンプー:チャンリミタン競技場、カジャ・トム(市場)、キリスト教の教会、JICAブータン事務所、ブータン日本語学校、私立幼稚園・小学校(Deki School)、織物博物館、教育・技術開発省、伝統技芸院、国立図書館、ヒンドゥー寺院、ハ:公立幼稚園・小学校(Jyenkana Primary School)、ラカン・カルポ、ハ・ゾン、パロ:ドゥンツェ・ラカン、キチュ・ラカン、タクツァン僧院、公立幼稚園(Tshendona ECCD Centre)、パロ・ゾンです。各訪問先でインタビューを行い、日本語学校の学生と市内散策をさせていただいたり、ホームステイ先の農家で農作業を手伝わせていただいたり、夕食にゲストをお呼びしたり、町中でJICA海外協力隊の方々にお会いしたりしながら各々の研究を遂行していきました。

ティンプーでは、友好協会会員の青木薫さんや須藤伸さんにも大変お世話になりました。以下に、履修生が大学ウェブサイトでの報告用に記した文章を紹介します。


2024年8月19日から28日にかけて、2024年度「国際共生社会論実習」の一環として、ブータンでの現地調査(スタディツター)を実施しました。

今年度の参加者は、学部1年生3名、2年生1名、3年生1名の計5名でした。参加者は各自の専攻分野や興味に基づき、「ブータンの都市化における伝統建築の共存と住民意識」、「ブータンにおける宗教と国民の関係性」、「ブータンにおける教育の地域格差と教育価値」、「ブータンにおける初等教育を取り巻く環境」、「ブータンにおける教育と子ども観の関係性」などを研究テーマに設定し、現地での視察やインタビューを行いました。

現地調査中は首都のティンプーに3泊、ハに2泊、パロに2泊の滞在をしました。パロ空港に到着すると、ガイドさんとドライバーさんから歓迎の意味を込めて白い布を首に掛けられ、心温まる出迎えを受けました。ティンプーではJICAブータン事務所、ブータン日本語学校、キリスト教の教会、私立小学校、教育・技術開発省、ヒンドゥー寺院、伝統技芸院を訪問しました。日本語学校の方々とは市内散策を楽しみ、日本語や英語でコミュニケーションとりながら土産物を見たりお茶をしたりして親交を深めました。他にも、チャンリミタン競技場やキラの生地を扱うお店を訪れました。

ティンプーから車で3時間半の距離にあるハでは、公立小学校とECCD(Early Childhood Care and Development、早期幼児ケア・開発)センターを訪問し、都市部と地方、私立と公立の教育の違いを比較しました。また、JICA海外協力隊として現地で体育を教えている髙江洲さんともお会いし、現地の子どもの生活の様子について学びました。ハ滞在中は農家にホームステイし、エマダツィ(唐辛子をチーズで煮込んだ料理)やパクシャパ(豚肉と大根を煮込んだ料理)などブータンの伝統料理の数々を堪能しました。夕食時には、農家のお父さんからヤク飼い時代の話を聞いたり、お坊さんである弟さんからチベット仏教の教えを伺ったりしました。

パロでは、いくつかのラカン(寺院)やタクツァン僧院へのハイキング(片道約2時間)に行きました。ガイドの方の解説を聞きながら五体投地を実践し、チベット仏教を肌で感じました。

スタディツアー中は、ブータンの唐辛子料理を毎回の食事で楽しみ、伝統建築の美しさに心を奪われ、人々の優しさに癒されるなど、ブータンの文化や人々に深い感銘を受けました。小学校2校とECCDセンター3か所を訪問し、現地の先生や子どもたちと交流しました。子どもたちはとても人懐っこく、可愛らしいうえに、英語での会話も楽しむことができました。特に、都市部の小学校の子どもたちが流暢で聞き取りやすい英語を話していたのが印象的でした。これは、幼少期からインターネットで英語の動画をよく視聴していることが背景にあるようです。また、山が好きな私は、どこからでも見える山々の景色に心躍る思いがしました。人々の生活の様子や建築、そして豊かな緑に囲まれた風景に懐かしさを感じ、ブータンはとても居心地の良い国だと感じました。

ツアーを通じて感じたことは、ブータンは新旧が混在しているということです。例えば、ハの公立小学校では、年季の入った教室で生徒がヨーロッパの学習ツールを使ってパソコンで個人学習をしている光景が見られました。公立のECCDセンターでは、基本的に子どもと教師は公用語のゾンカ語で話す一方、掲示物のほとんどが英語でした。教育省の職員の方によれば、ブータンの教育は、伝統文化のなかで生きる力と、グローバル社会で活躍できる力の両方を育むことを目指しているとのことです。

ブータンには信号機が一つしかなく、それも手信号です。手信号の勤務が終わると信号なくなり、車はお互い譲り合いながら道を進むことになります。移動中は、牛や馬、鳥、犬が道路を歩いているため、彼らが道路を渡り終えるまで車が止まるという光景が度々見られました。ブータンでは動物が赤信号の代わりをしているのです。事故がないわけでもないようですが、それでも、信号機がなくても交通が成り立っていることに感動しました。高齢者もスマートフォンを使いこなしている一方で道路に信号はないという、新しいものと古いものが混交しているような状況が面白く、ブータンへの興味がさらに湧きました。

さらに、実際に現地を訪れることの重要性を改めて実感しました。チベット仏教の価値観については、ガイドさんやお坊さんの話を日常生活の一コマに照らし合わせながら少しずつ理解しました。家々に立つカラフルな旗、至る所にあるマニ車、数珠を持ちながらお経を唱えつつ時計回りに歩くお年寄りの姿を目にして、チベット仏教が人々の生活に深く根付いていることを実感しました。また、王家の写真が家やブローチなど様々な場所に飾られていることにも新鮮な驚きを覚えました。どの場面を切り取っても、必ずその一枚の中にチベット仏教や王家の息づかいを感じることができるのです。これらは、ブータンに足を運び、五感で味わったからこそ得られた気づきです。現地の食事を味わい、ブータンの人々と触れ合い、建建築物や自然に囲まれるなかで、ブータンを肌で感じ、その意義を深く理解することができました。

今回のスタディツアーの経験を振り返り、事後学習を通じてさらに深めることで、ブータンへの理解を一層深めるとともに、他地域における異文化理解にも繋げていきたいです。

(文教育学部人間社会科学科子ども学コース3年 白川乃倫子)


現地調査を通して、履修生はブータン国内の宗教の多様性、GNHをもとにした開発政策の難しさや生じている社会問題、人々(特に若者)の葛藤、文化を継承することの難しさ等についても理解を深めたようです。事後学習を通して学びを振り返り、11月9日(土)にはお茶の水女子大学の学園祭「第75回徽音祭」にて、参加者の方々に向けてその成果の一端を報告しました。今後、履修生による調査報告レポートや訪問記録、学園祭での展示ポスター等をまとめた報告書を作成して参ります。

※日本ブータン友好協会『日本ブータン友好協会会報 ブータン』第164号、3-4頁より転載。